仏×青い鳥×記念日

 匿名希望って書いてとくな……のぞみさん?

 なんだろう、徳の高そうな名前だなってコメントは微妙だね。

 とりあえずはこう言っておこうか。

 こんばんは。


 あたしがなんの変哲もない少年だった時代。

 十歳になるかならないかだったかな。

 当時通ってた学校的な場所で、とてもやさしい先生がいたんだ。

 それがのぞみさん、あなただった。

 学校的な場所……学校ではなかったんだけど、子供たちに勉強を教えてくれる場所。

 ううん、寺子屋とか、教会の孤児院とか?

 まあ、そんな感じのところをイメージしてほしいかな。

 みんないつも仏様のように穏やかなのぞみさんに懐いてて、いつ見ても人が集まってるような先生だったな。

 でも、あたしは当時そんなのぞみさんが苦手だった。

 当時のあたしはやんちゃ坊主でさ、のぞみ先生を困らせてばっかいた。

 困っているけどにこにこしているのぞみさんを見て、本心の読めなさを不気味に感じてたのかも。

 今思うと困らせてる側がそんなこと思うなよ!って感じだけどね。

 ふふ、ごめんね?

 でも、当然そんなのぞみ先生も人間なわけだから感情のゆらぎがあるわけで。

 当時住んでた国の記念日に、学校に集まってごちそうを食べる機会があってね。

 その日は勉強をお休みして、色とりどりの花を飾り付けて、みんなで祈りをささげたあとで用意したお菓子を食べるんだ。

 もちろんお菓子は人数分用意されていて、その時あったのは手のひら大の生地の上に木の実やフルーツのたくさん乗ったタルトのようなお菓子だった。

 タルトではないけどね、近い表現をするとそんな感じ。

 あたしは配られた瞬間ガツガツ食べて、いじきたなく他の人のお菓子を物欲しげに見つめたりしてたんだー。

 その時目に入ったのが、のぞみさんだった。

 どちらかというとのんびりしていたのぞみ先生は、食べるスピードもゆっくりしてた。

 瞳を閉じて、口をあーんと開けて、お菓子にかぶりつこうとした。

 その時だったの。

 先生の顔スレスレを横切った青い影があったんだ。

 それは……名前はわからないけど、青い鳥だった。

 絵本に出てくるような幸せの象徴じゃなくて、人懐こい悪戯好きの青い鳥がいたんだ。

 みんなびっくりしてのぞみさんの周りに集まったよね。

 勿論その中にはあたしもいたよ。

 先生のことが嫌いなわけではなくて、ただ天邪鬼なだけだったから。

 唖然とする先生の手の中には、フルーツ部分だけが綺麗になくなったお菓子の土台だけが残されていた。

 青い鳥のヤツ、見事に美味しいところだけ持っていったんだ。

 それを見たのぞみさん、なんて言ったと思う?

 いつものにこにこ顔がしょぼくれて

「楽しみにしてたのに……」

 って言ったんだ。もちろん、みんなを心配させないようすぐにこにこ顔になったんだけど。

 その一瞬のしょんぼり顔を見たあたしは

「いつも笑ってる先生も感情がある人間なんだ」

 ってようやく納得して、のぞみさんを不気味に思わなくなったんだ。

 あたしにとっては幸せの青い鳥だったのかもね、あの時のつまみ食い鳥。

 ……いや、のぞみさんがお菓子を食べられなかったのは可哀想だけどね、ウン。


 じゃあね!また次の夜にお会いしましょう。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

「匿名希望」さんからのキーワードで思い出した記憶です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る