砂浜×黒×スカーフ
昔、あたしがとある冒険家……の見習いをしていた頃の話だ。
見習いの少年だったよ。
冒険家のことは一応センセイって呼んでたけど、尊敬の念はそこまでなかった。今だから言える話よね。
今よりも若い年齢で社会進出が認められていた時代だ。
冒険と言いつつ、ほぼ考古学の研究データ集めのような旅だった。
色んな場所に行ったけど「黒い海」と呼ばれる地域に向かった時の話をしようか。
海そのものじゃなくて、沿岸部を調べて回っていた。
独自の文化を形成してる集落があってね。
船乗りたちの噂や周辺地域に残された資料からたどり着いた、離れ小島のような場所。
単刀直入に言うと、アマゾネスと呼ばれる女傑達が権力を持っている地域だったんだ。
冒険家はインディジョーンズみたいな恰好をしていて、それに続くあたしはボーイスカウトみたいな服を着て探索しにいった。
砂浜に落ちてる流木や貝殻を採集したり眺めたりしながら歩いていってね。
すると、案の定彼女たちに見つかったんだ。縄張りにノコノコ現れた獲物としてね。
不審者として石器でできた槍とか弓を突き付けられた我々はあっという間に縛り上げられ
集落の中心、リーダー格のいわゆる「長」の前に突き出された。
その長は何かあたしたちに話しかけてきたけど、何を言ってるのやらさっぱりわからなかった。
首筋に槍を突き付けられたあたしは震えるしか出来なかったけど、冒険家の先生はたどたどしい言葉でコミュニケーションをとっていた。かろうじてね。
長いようで短い交渉の末、あたしたち二人は檻に放り込まれた。
何を話してたんですか?って聞くと、冒険家センセイからは驚くべき答えが返ってきたんだ。
「この集落は女性が権力を持っているが、男性も必要最低限の人数いるらしい。
そう、子孫繁栄のために……婚姻関係を結ぶためにな」って言われちゃって。
つまり当時のあたし、いたいけな少年はアマゾネスと結婚するために檻に入れられちゃったってこと!
もちろん冒険家センセイの方もだけど。
センセイは腕組みして
「私は今独り身だし……婚姻してから脱出の手段を考えるのも有りかもしれない」
とか言っちゃってる。
そして、ちゃんと好きな女の子と結婚したいあたしとしては由々しき事態この上なかった。
運良く檻のそばに来た見張り役の女の子が同世代だったから、ちょっとした賭けに出たんだ。
胸元に付けてたスカーフを……すべすべした綺麗な布だ……それをあげるから、檻から出してくれない?
ってね。
描いていた計画としては、スカーフを報酬にして女の子に檻の鍵を開けてもらうつもりだった。
ただ、これが大誤算。
あたしがスカーフを突き付けた女の子はみるみる顔を赤くして、檻を開けることなく走り去ってしまった。
作戦失敗かと歯噛みしているあたしの横で冒険家先生は顔を青くしていた。
僕、なんかやっちゃいました?って聞いてる間に、さっきの女の子が長を連れて戻ってきた。
やけに笑顔で満足げにうなずきながら、あたしを檻から出した。
そして取り残された冒険家先生は焦ったように叫んだの。
「馬鹿者!ここで女性に身に着けている物を贈るということは『一生貴方の奴隷になります』という誓いのサインだぞ! 君はもうここで一生暮らすしかなくなってしまったんだぞ!」ってね。
もう顔面蒼白になっちゃったんだけど、当時のあたしは状況を受け入れるしかなかったんだ。
冒険家のセンセイ?
そのあと隙を見てちゃんと逃げ帰ったよ。
そう、少年だったあたしとアマゾネスの女の子の結婚式という隙をついてね!
対するあたしは故郷に別れを告げることも叶わないまま、一生そこで暮らして人生を終えたよ。
狩りはお嫁さんに任せて、自分はその集落の文化を書き残しつつ、畑で穀物を育てたりしてね。
まあ、言うほど悪くない人生ではあったのかもね。
ここでみんなに言いたいのは、知らない文化圏でうかつな行動を取らないことかな。
人生一回分の体を張った教訓ではあったよね……
じゃあね。また次の夜にでも会いましょ。
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