ソーセージ×スニーカー×傘
こんばんは、名無しさん。
なんだか雨が降りそうだね。そういう空気してる。
雨といえば……覚えてる?
その時、あたしは女子高生だった。
すごい内気で奥手で、か弱い16歳……17歳?いや、ほんとなんだって。
文芸部……部活の用事で、結構遅くまで学校に残ってたんだ。
そう、一人でね。
部誌を印刷するための許可とか、資料集めとか、そういう雑務をこなしていた。
一通り終えた後は日も沈みかけていて、午前中の太陽が嘘みたいに雨が降っていた。もちろん傘なんて持ってなくて、下駄箱の前で途方に暮れてたんだ。
でも、門限も迫ってるし、濡れるの覚悟で走って帰ろうとした。
その時だったんだ。文芸部の顧問の先生が傘を持って立っててね。
「傘ないのか」
って声をかけてくれたの。
びっくりして、あたしはただ「はい」って言うしか出来なかったんだけど、
先生は当たり前のように「駅まで送る」って言って、傘を開いてくれたんだよ。
あたし、電車通学だったんだ。
駅までいわゆる相合傘で帰ることになって、ドキドキしながら歩いていた。
まー今思うと小娘だったしねえ、大人の男性への憧れとかで恋に恋しちゃってたんだろうね。大人の男性の傘の下に入ってるって事実すらが恥ずかしくて、ずっとうつむいてたんだ。
だから、先生がどんな顔してどこを向いていたのか知らないの。
俯きすぎて自分のスニーカーのつま先ぐらいしか記憶にない感じ。
先生は悩み事はないかとか、他の部員はどうしたんだとか聞いてきたけど、なんて答えたか覚えてない。
今思うと、先生は無口で大人しい性格のあたしを心配してたんだろうね、教師として。
……おとなしい性格だったの!今と違って!
それから駅に着くと、先生は踵を返して学校に戻っていった。
本当に送るためだけに来てくれたんだって思ったら、まー舞いあがっちゃうよね。ちょろいちょろい。
次の日。たまたま相合い傘を目撃した当時の友人が冷やかしに来た。
そうだよ。その友人が名無しさん。
同じ女子高生だったあなただったね。
お昼ご飯のソーセージパンを頬張りながら
「あの先生、確か婚約者いるって聞いたよ」って教えてくれて。
それを聞いた途端に頭が真っ白になっちゃって。
自分でもびっくりした。
その後の授業の記憶がすっぽり抜けちゃったことだけは覚えてる。
記憶がないことを覚えてる、ってのも変な感じだけどね。
手っ取り早い話、失恋することで恋を自覚したんだねぇ。当時はその感情が何かわからないまま止まりだったけど。あたしにも可愛い時期があったもんだわ。
いや、不死川時代じゃないから、厳密にはあたしじゃないんだけどさ。
まあ、今のあたしと来たらその先生の顔も、声も、恋愛感情ってのがどんなものだかすら忘れちゃってんだけどさ。
不思議なのが、傘をさした後ろ姿だけ覚えてるんだよね。
紺色の大きな傘を、見えなくなるまでずっと見てた。隣にいる時は顔もあげられなかったのにね、そういう時だけずっと見つめてるんだもん。笑っちゃうよ。
あ。
もう一つ言うと、婚約してる先生ってのは別の先生のことで、名無しさんの勘違いだったってオチもあるんだけどね。
このあたりはまた違うお話……ってやつかな。
話す機会、あるかどうかわかんかいけどねー。
おっと。そろそろ屋根のある場所に避難した方が良さそうだ。
本格的に降ってきてからじゃ風邪ひいちゃうもんね。
じゃあね。
また次の、ちゃんと晴れてる夜に会おうね!
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「名無し」さんからのキーワードで思い出した記憶です。
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