化石×ショートカット×壁

 やっほ。不死川千しなずがわ せんだよ。

 たまには勇者時代の話、どう?

 へへ、あたしが見つけた中で一番のお宝のこと思い出したんだー。


 まず、あたしが一番最初の人生を過ごした世界と今の世界は、物質的にはほぼほぼ同じってことを確認しておこう。

 金属は錆びるし、水は蒸発する。そういうしくみは同じみたい。

 そこで質問。

 化石が出来る仕組みって知ってる?

 あたしも上手く説明できるわけじゃないけどね。

 地中に埋まった骨が、長い時間かけて石や鉱物に置き換わって出来るんだ。

 まさに石に化けていくわけだね。

 この石の中には、平凡な金属もあれば宝石と呼ばれる美しさを持つ物もある。

 それを見つけたのはあたしが……あたしと仲間が、とある洞窟を抜けようとしていた時だったんだ。

 本当は最短距離で抜けて次の街までショートカットしようとしてたんだけどね、あたしが迷子になっちゃってさ。

 ちょうど地上からの光が射す場所でね。そこにあった古い人工の噴水を触りいったらあっけなく一人ぼっちってわけ。

 いやー参った。方向音痴は生まれ付きなんだねー。

 そうやって仲間からはぐれた時は、平和な一箇所でじっと待つのが一番なんだけど、いかんせん曲がりなりにも勇者だ。

 周りに危険要素がないか、自分を探しに来た仲間が引っかかりそうな罠とかないか調べるためにモソモソ動いてたわけ。

 そうやって調べて、お宝を見つけることも珍しくなかったしね。

 お察しの通り、あたしが化石を見つけたのはこの時だ。噴水からすぐ近くの壁に、何かが埋まっているのを見つけた。当時は魔法って便利な概念があったからね、金属探知機も地中探知機もかざした手で事足りたんだ。

 ただ、化石とはすぐ分からなかった。もしかして罠が埋まってるのかもって思った。

慎重に柔らかい土だけを取り除いて……土を取り除く魔法と侮るなかれ。生き埋めにされた時とかにすごく便利なんだって。

 まあ、生き埋めになる危険性のない人生を送るのが一番なんだろうけどさ。

 今思うとこの発掘作業してたから待ち時間退屈せずに済んだのかもね。

 あたしが化石の端っこを発掘したのと、仲間があたしを見つけてくれたのはほぼ同時だったかな。

 見つけた早々、あたしが何かに面食らってたもんだからみんな駆け寄って来てさ。

 土の中からまさしく顔を出すドラゴンの化石、いや、恐竜かな?それの神々しさにみんなで言葉を失ったんだ。

 その化石は、全身がオパールで出来ていた。

 陽が差し込んでくれたおかげで、虹のようにきらきら輝いていたんだ。

 そう。全身オパールで出来たドラゴンの化石。

 それがあたしの見つけた一番のお宝だ。

 売れば相当な価値があったに違いないよね。

 うん。

 売らずにそのまま埋め直したんだ。

 だって、化石になっちゃったとはいえ骨だよ?

 それに、これは推測だけど、化石が埋まってたすぐそばに、古い噴水があった理由。

 それってさ、もしかして慰霊の意味があったりするんじゃないかなって考えたんだ。

そうなると、あたしがやったのは墓荒らしだ。そりゃ、埋め直すよね。

 人間が綺麗な噴水を作るぐらいだもん。きっと人間に優しいドラゴンだったんだよ。

 だったら余計に、ゆっくり眠らせてあげたいじゃない?

 ね?


 ふぁ……ねむ。あたしもそろそろ寝る時間かもね。

 いや、死ぬわけじゃなくて単純な睡眠。

 おやすみ。また次の夜に、お会いいたしましょ。

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