マフラー×お菓子×電話ボックス

 あたしには、探偵をやってた人生がある!

 ……というのは、前にも話したよね?

 よろしい。

 それでは、あたしが人知れず事件を解決した話をしよう。

 とは言ってもクローズドサークルに巻き込まれたとかダイイングメッセージを読み解いたとか、そんな派手なものじゃない。

 敢えて言うならコージーミステリーかな?

 ……あー、あたしちょっと面倒な語り口になってない?大丈夫?探偵の頃もこんな喋り方してたのかな、そりゃ客も来ないわな。


 ってことで、早速本題に入ろうか。

 あたしが事件解決に手を貸したのは、ずばり個人商店に押し入った強盗の情報特定!

 いや、特定しただけで捕まえたのは警察なんだけどね。実際探偵ってそういうもんだし……

 まあいいじゃん。

 その事件に遭遇した日。それは平日の穏やかな昼下がりだった。

 あたしは食料の買い出しに問題の店に出かけ、会計をし、袋いっぱいの荷物を手にして扉から外に出たところだったんだ。

 大通りに面した店でね。車の通りも多かった。

 その時もバイクが停まる音が聞こえて……路面駐車とか、今ほどやかましく罪に問われない時代だったんだよ。

 そうやってあたしと入れ替わる形で店に入ってきたフルフェイスマスクの男。

 そいつが犯人だったもんで、店員に武器を突きつけられた瞬間、探偵は見事に蚊帳の外だったんだよ。

 それどころか見せ物じゃねえと怒鳴られて追い払われる始末。あたしは近くにあった電話ボックスの影に隠れて、店の中の様子を探ることにした。

 ガラスの扉の向こうであれよあれよと言う間に盗まれていく金品。

 さすがに丸腰のまま武器持ちの男に特攻するほどあたしも馬鹿じゃない。

 取り急ぎ警察に通報だけしておいたものの、そのまま現場から離れるほど薄情にもなれない。

 男がバイクに乗って来たことを知ってるのはあたしだけのはず。

 だからせめてナンバープレートだけでも記憶しておこうと思って店の前に目を向けると……なんと10台20台と停められていたバイク達。しかもバイクに興味のないあたしからすると、似たり寄ったりの色や形という地獄。

 撮影すればいいじゃんって意見もあるかもしれないんだけど、スマホなんかない時代の話なんだよねー。

 一人で覚え切るには難しい量に頭を抱えるしかなかったんだ。

 警察が到着すればあとは任せられるんだけど、どうにも到着を待たずに強盗が逃走する方が早そうな空気が漂っている。

 だからあたしは、身銭を切ることにしたんだ。

 購入したばかりの食料の中には、お菓子のバラエティパックめいたものがあった。小分けにされた袋がたくさん入ってるタイプのお菓子だね。

 そこにナンバープレートの番号をメモして、全員バイクのマフラー部分に放り込んでいった。

 強盗に見つからないようコソコソしながらだったから、傍から見たらあたしこそが不審者だったと思うよ。通報されなくて本当に良かったというかなんというか。

 そして読み通り、強盗は警察の到着を待たずに逃走してしまった。

 戦利品の入った鞄をしっかり持って、来た時と同じようにバイクに乗って去ってしまったんだ。念のため隠れて様子を見ていたけど、隠れながらだとナンバープレートの確認はできなかった。

 けど、道端に落ちた菓子袋が、見事に逃走バイクのナンバーを教えてくれたんだ。

 そう。あたしの仕掛けが見事に作動したんだ。

 一応説明すると、バイクのマフラーってのは排気ガスを出すためにある。

 だからエンジンを吹かせば、あたしが詰め込んだお菓子の袋がそのまますぽーん!と飛んでいく仕掛けってわけ。

 実はそのバイクは盗難されたものでしたーなんてどんでん返しもなく、後から来た警察にナンバーを伝えると強盗は難なく御用になった。

 まあ、もっとスマートな方法はなかったのか?って言われると微妙だけど……

 こっちはお菓子のバラエティパック分の補償もされずに犯人逮捕に協力したんだよ。

 我ながら十分立派な働き出来たと思うよ。

 確かに、事件と関係ないバイクのオーナーさん達からするとマフラーにナンバープレートを書き記したお菓子を詰め込まれてるのはなかなか不気味だと思うけど……

 ……や、冷静に考えたらすさまじく不気味なことやらかした気がするな。


 まあ、これも時効ってことで許してくれるよね!

 それじゃ、また、次の夜にお会いしましょ。


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https://kakuyomu.jp/works/16816700427610465717/episodes/16816700427871458820

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