ベランダ×海×自転車
お兄ちゃん、こんばんは!
ふふ、びっくりしたでしょ?
今夜は匿名の君と、あたしが兄妹だった時のことを話そう。
君がお兄ちゃん、あたしは妹。そういう時もあったのよ。
あたし達はとある町の薬屋さんで育った。白い家が立ち並ぶ、海沿いの町。先にネタバレしちゃうと、この薬屋は後々ビジネスチャンスを掴んで大変ビッグになる。
で、その実家がまだスモールだった頃。
併せてあたしもスモールな五歳児だったぐらいね。
当時の父さんはその頃、薬草酒の研究にかかりきりだった。
いくつもの薬草を混ぜたりスパイスの配合を変えたりして、目玉商品を生み出そうと頑張ってた。母さんに店の切り盛りを任せて、次期店主であった長男……そう、お兄ちゃんである君は薬草の確保に奔走してたのさ。
あと、あたしという偉大なる妹の子守りもね!
今考えると大変だったと思うよ、迷いやすい森に三秒目を離したら走り出すちびっ子連れていかなきゃ行けないんだもん。
流石に父さんも気を遣ってくれたのかな、当時やっと流通し出した自転車をあたしたち兄妹に使わせてくれたんだ。
それがあれば、陽が沈むまでに森から町に帰ってくることができる。
でも、薬酒の開発は想像以上に困難を極めた。効能を優先するの、どうしても嫌な匂いが残っちゃうの。
母さんは父さんに「もう諦めて以前のように細々経営して行こう」って言って喧嘩になっちゃうしね。悪い時には悪いことが重なるもので、いつものように薬草摘みに行った時、あたしが迷子になっちゃったんだ。
その時のことは……えーと、あたし視点は迷子の自覚なかったんだよね。地面見ながら珍しい花とか石拾ってただけなので……
ただ、お兄ちゃんからすると大事件よねー、大事な妹を見失っちゃった訳だもん。
あたしを見つけた瞬間、手にいっぱい抱えた薬草を投げ捨ててこっちに走って来たのは今でも思い出せるなあ。
その日はまだ太陽も高かったけど、早めに帰宅することになったの。
お兄ちゃんが摘んだ薬草と、あたしが摘んだ白い花をバスケットにつめて。そのバスケットをあたしの体にくくりつけて。
お兄ちゃんが漕ぐ自転車の後ろにあたしがしがみついて、大通りでもある坂道を一気に降りたんだ。その時ね、ちょっと荷造りが甘かったみたいでバスケットの蓋が空いちゃったんだ。
葉っぱと白い花を撒き散らかす自転車はいい宣伝になったみたいで、次の日ちょっとだけお客さんが増えたんだよね。母さんも偶然その様子をベランダから見てたみたいで、すごく綺麗だったんだって。覚えてる?
あとね、いい流れはここでは終わらなかったの。
あたしが迷子になって摘んだ花がすごくいい香りで、蜂蜜と合わせることで薬草酒の嫌な薬臭さを消してくれることがわかったの。調合したのは父さんだけど、提案したのは母さんね。
あとはもう、ネタバレした話の通り。
家族が力を合わせて完成させた薬草酒は店の看板商品になり、小さな街の名産品になり、出荷先の人の健康に貢献した……と、思うな!
あたしってこんなだからさ、基本家族って血が繋がってるだけの他人だって思ってるけど、あの人生は良い家族に恵ま れたなって心底思ったよ。
あなたはどう?
お兄ちゃん。
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「匿名」さんからのキーワードで思い出した記憶です。
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