黄金×大工×足跡
あたし、宮大工さんのところで働いてたことあるんだ。
宮田 いく ってVtuberの名前じゃないよ?
……ごめん、滑ったわ。
気を取り直して、
宮大工ってのをざっくり説明すると、神社仏閣専門の大工さんてわけ。
そう。建築とか修繕とかするの。
あたしは大工ではないよ、というか、人間じゃなかった。
そう、頭領に飼われてる猫だった。
珍しく覚えてるんだけど、名前は「ニャー」って呼ばれてた。いや、これマジ。真面目に本当なんだって。
頭領に飼われてるって言ったけど、実質構えてた事務所……?のみんなから可愛がってもらってた。
色んな現場に連れて行ってもらってたんだ。猫は無条件でかわいいからね!
そんで、当時その地域には「猫には魔除けがあるから、建築中に猫の足跡がついた建物にはご利益がある」って話があってね。
まだ乾いてない漆喰とかにあたしの足跡を残そうとする職人さんが結構いたんだ。新人さんが面白がってね。
もちろんあたしは足がべとつくの嫌だったから、そりゃあもう猛抵抗よ。抱き抱えられそうになったら暴れて逃げ出して、既に完成してるお社に逃げ込んだんだ。
人間達が入ってこれない隙間に入って、暗くなるまでうとうとしてやり過ごすの。
その日も同じように足跡付ける仕事をさせられそうになったから、威嚇して逃げて、既に建っていた社務所に逃げ込んだ。
奥へ奥へと進むうちに、なんだか違う道に迷い込んだみたい。
足跡から伝わる感触が、ただの土から冷たい石に変わった。誰かが作った、隠し部屋だった。
とは言っても生き物の匂いはなくてね。長い間、誰も入った形跡のない、忘れられた場所だった。
そこには古い壁画があって、大きな生き物の絵がうっすら残ってたの。黄金色の金箔が貼られている箇所もあった。何の生き物かは説明出来ないんだけど……!
とにかく、描いた人がとても大事に、信じる気持ちを込めて描いたんだろうなって思いながらじーっと見てた。信仰とか関係なく、ただただおごそかで綺麗だったんだ。
で、お腹が空いたから元いた場所に戻ってみたら、棟梁が半泣きであたしのこと探してて「ヤベ」って思ったよね。
その日のご飯は脂の少ない上等なマグロだったな。
その頃は脂の乗ってるトロとかは保存方法もなくて、すぐ捨てられる部位だったからね。実質最高級の食事でご機嫌になっちゃった!
もしあたしがあの場所から金箔を剥いで、頭領の元に持って行ったら、あの絵は発見されたかもしれない。
でも……その絵を傷つけるなんてこと、あたしには出来なかった。
かつてステンドグラスを割ろうとした無神経な人間……勇者にしては進歩したでしょ?
まあ、人間じゃなくて猫だったんだけどね!
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