あまおう×ディスカバー×温泉街
ハロー?ハワユ?
いや、日本語伝わるのはちゃんと知ってるよ。大丈夫大丈夫!
むしろこんなよちよちした英語、本場の人に通じないって。
あたし、日本以外にも生まれてるはずなんだけどなぁ。死ぬ時に脳の言語野持ち逃げされてるのかなってぐらいなーんも覚えてないんだよね。
でも、言葉を理解できない動物に生まれたはずなのに、人間時代の言語が理解できた時があった。
それが、ていいくさんと出会った時のことなんだよね。ほんとに不思議な出会い、そして別れだった。
その時、あたしはゴミ捨て場に住む一匹のネズミだった。
そのゴミ捨て場には壊れた無線機が捨て置かれてたんだけど、電池が抜かれてなかったのかたまに電源が入ったりしてね。
時々聞こえる人間の話に耳を澄ましてた。
その時はなぜか人間の時の言葉を思い出すことができて、なんとなく内容も理解できたんだ。だから、ふざけて応答したりしてた。
ネズミだからチューチュー鳴くだけだったけど。
宇宙局の話題ばかり流れてたから、偶然にもそういう施設の無線を傍受してた可能性あるかもなって、今なら思うよ。
そうして惰性で生きて、夜空を見上げながら無線に話しかけていたある日のことだった。空から光る円盤……UFOが現れ、目の前に着陸した。
中から出てきたのは、ネズミそっくりの宇宙人。というか、まんまネズミ。
ネズミが宇宙服着て、ぞろぞろ降りてきた。
この時代が何年かまでは覚えてないけど、無線の内容的にも人類が宇宙に行ったことすらなかった時代のはずだもん。それを先に乗り越えてたんだよ、ネズミが。
ヤバいよね、ネズミ。
ネズミが地球を作ったって銀河ヒッチハイクガイドでも言ってたし……あ、ごめん。ネタバレしちゃった。面白いからおすすめだよ、銀河ヒッチハイクガイド。
とにかく、あたしは宇チュー人達に連れられて、あれよあれよという間にUFOの中に連れて行かれた。UFOの中は真っ白で、壁に触ってみると乾いていない紙粘土みたいな感触だった。
丁寧に扱われたから、地球に漂着した仲間だと思われたのかもね。
手厚く迎えられて、人間が使うような食卓でもてなされた。その時出されたのは、あまおうイチゴのソースをたっぷりかけた、月の裏の顔風パンケーキ。
これね、当時は何もわからなかったんだけどさ。今思い出してみて驚いてるんだ。
あまおうが登録されたのが2005年でしょ。月の裏がディスカバーに撮影されたのも2015年とかだったはず。…まあ、これは地球人が観測できたのが2015年って話だから、この時のネズミ型宇宙人には関係ないかもだけど。
とにかくあのネズミ達、宇宙旅行だけじゃなくて時間旅行まで満喫してたことになる。
パンケーキを食べるあたしを、ネズミ達はかわいそうなものを見る目で見つめてきた。居心地悪かったのは覚えてるなー。
そして、代表者みたいな一匹のネズミがあたしに話しかけてきた。
「私たちと一緒に来ませんか」って。
そう。それがていいくさん。あなただった。
「かわいそうに。 あなたの魂はプロミネンスの炎の鳥に感染している。 我々と同じ今の体なら、我々の技術による治療を受け、我々と宇宙の監視員として生き、そして全てを忘れ安らかに眠ることが出来る」
みたいなこと。言われたんだよね。細かい部分間違ってるかもしんないけど。
……あたしのこの、死んでも前世の記憶を背負い続ける特異体質のことを言ってるってすぐわかった。それに同情してるとも。でも、なんだろうな。素直にうんって頷けなかったんだよね。
自分のケツは自分で拭きたかったのもあるし、美味しいパンケーキを作る優しいネズミ達に迷惑かけたくないなって思っちゃったから。
だからさ、また次ネズミに生まれた時考えるって返したんだよね。
ネズミ達は残念そうな顔をしたけど、割とあっさりあたしを地球に返してくれた。そう、いつの間にか宇宙に飛び出してたっぽいんだよね。
当時は宇宙から見た地球とか知らなかったから、なんか外暗ッ!程度にしか考えてなかったの。
着陸したのはアイスランドだった。
そこであたしは、はじめて自分がアイスランドの、今で言うブルーラグーンのゴミ捨て場に生まれたネズミだったことを知ったんだ。
ブルーラグーン。アイスランドにある有名な温泉街、いや温泉施設かな。とても綺麗なミルキーブルーのお湯をしてるから、一度見てみてよ。
そのほとりに立ったネズミ達は悲しそうに手を振って、また宇宙(そら)に戻っていった。そして最後に人間の言葉でこう言った。
「góða nótt(ゴウザノット)」
って。
これは……アイスランド語で「おやすみなさい」って意味だね。
さすがに忘れないよ。
しかし、ていいくさんもここにいるってことはあの時のネズミは寿命で亡くなったんだね。考えてみたけどそりゃそーだよなー!ネズミってことは寿命もそれなりだ!
宇宙から来たってだけですごく長寿なイメージ持ってたけど、そりゃーなー。
すごい一瞬の出会いを見逃さずに、あたしを助けようとしてくれたんだね。
ありがとう。
お礼言い忘れてたのずっと引っかかってたからさぁ。
ここで言えてほんとに良かった。
じゃあね。また次の夜に会おうね。
バイバイ。
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「ていいく」さんからのキーワードで思い出した記憶です。
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