100点のテスト×遊び場だった森×火葬

 余命二時間さん、やっほ。

 前から思ってたけど、余命二時間を名乗るってすごいセンスだよね。

 二時間ごとに生まれ変わってるって意味ならあたし以上にハードな生き方してるわけだ。なんてね!

 ハードな生き方……そうねー、生まれたての野良猫に生まれた時が一番ハードだったかな。

 そ。実は人間以外も体験してんの、あたし。

 余命さんとはその時会ったんだけど……覚えてる?

 その時のあたしは、黒い猫だった。

 人が住んでる町がすぐそばにある森をそのまま縄張りにしてた。

 ちょうど廃墟があってねー……そーね、昔火葬場だった場所だから、いい感じに不気味で人間が来なくて、野良猫には最高の物件だったの。

 そして君は、あたしの体と同じぐらい、黒いランドセル背負った小学生の男の子だった。

 第一印象は「なんか見覚えある顔してんなー」だった。

 何度も森に来ては、色んな隅っこに体育座りして何かにじっと耐えてた。

 その度にあたしの縄張りだぞ!って威嚇しに行ったんだけど、余命くんは気にも留めてなかったな。

 むしろ野良猫の威嚇なんてどこ吹く風で、もう火がともることのない炉の中に、白い紙を捨ててた。たまに怒りをぶつけるように破いたりもしてね。

 毎回捨ててたその紙は小学校テスト用紙でさ。

 おやおや?さては親に見せたくない赤点を不法投棄しに来たのかな~?と思って覗き込んだら、点数は……なんとオール100点。

 君の顔を見上げてみたら、拗ねてるような、自棄を起こしたみたいな表情してた。

 まあ人間色々あるよなーってわかってたあたしは、余命くんが縄張りに居座っても、まあまあ許すようになってった。

 一番大きな事件が起こったのは、秋の終わりの夜だったな。

 いつもは学校帰りっぽい時間に森に来てたんだけど、その時君は、すっかり日が暮れて真っ暗になった森の中に飛び込んできた。

 いつもみたいに火葬場のロビーだった場所の階段に腰掛けて、膝を抱えて……泣いていた。

 当時猫だったとはいえ、あたしだからね。

 暗闇でもよく見える目で余命くんを観察した。服装は、たぶんパジャマもしくは部屋着。ブランドものかはわからないけど、良い品質のものを着せてもらってるみたいだった。

 履いてるスニーカーも、洗い立てが森の土でたった今汚れましたって感じ。

 これは確実に保護者が探してるなと思ったから、あたしは寝床にしてた焼き場からこっそり飛び出して町の方へ走って行った。

 近所の飼い猫に喧嘩売ったり情報もらったりしてたら案の定、必死に子供を探す大人数人をすぐに見つけることができた。

 良い暮らしをさせてるからって良い親とは限らない。

 あたしはそっと、耳を澄ませたの。

 その時ね、もう勉強しなくていいから!とか、良い人生を歩んで欲しかっただけだったの、許して!って呟きを拾うことができた。猫の耳だからねぇ。

 そこで立てたあたしの推測。

 余命くんは、母親から勉強しろ勉強しろって言われて、実際に頑張った。そして何度も100点を取る優等生になった。

 でも、親はその頑張りを褒めなかったり、勉強のために遊ぶことを禁止したり、とにかく遊びたい小学生を抑制した。し過ぎちゃった。

 その結果、余命くんは100点に価値を感じなくなり、家を飛び出してしまったと。

 結果、あたしは君を探す保護者達の前にラッキーキャットとして姿を現すことにしたのよ。

 これ見よがしに君の破いた真っ白な答案の、名前部分をわざとらしく黒い体に引っ付けてね。

 もちろん保護者一同は大興奮。下手にもみくちゃにされるのも嫌だから、付かず離れずの距離で君が泣いてる元・火葬場まで誘導した。

 そんで、親子は泣きながら抱き合って無事再会してた。

 その後は流石に知らないけど、それきり森には来なくなったから元気にやってたんじゃない?

 一度だけ偶然君を見かけた時は、地元の少年サッカーチームのユニフォーム着て笑ってたしね。

 あと、そうそう。

 わざわざ火葬場に来てた理由。いくら小学生でもちゃんと賢い子がゴミ焼却炉と火葬場間違えるかな~?って思いながら冬を越したんだけどさ。

 珍しく思い出したのよ。最初に会った余命くんのこと、見覚えある顔だなって思った理由。

 実際会ってたのよ。たぶん、当時の君のお父さんの葬式だったのかな。

 うん。お父さんを焼いたであろう場所に、君は100点のテストを捨ててた。

 ……色んなこと考えちゃうよね。

 ま、あたしも当時は生きるのに必死だったから、考える時間なかったんだけどね!

 そんな感じだなー。


 それでは、また次の夜にお会いしましょう。


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「余命二時間」さんからのキーワードで思い出した記憶です。

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