さかな×画家×価値観
文芸部だった頃の話?
あの、あたし部活は水泳部だったって配信で何度も言ってんだけど?
……あー、一個前の。
前世の時のね、はいはい。一周年記念配信で出たやつ。
うーん、
成人式する前に死んだからそこそこ記憶新しいんだよねー。
んで、文芸部の部長だった頃に部誌に書いた話……ええと、海の魚の話だよね。
部誌は季刊だったから年に四冊分、つまり四本寄稿したはずだけど、この数ならたぶん思い出せるな。
とはいえ、一字一句覚えてるはずなんてないからあらすじね。あらすじ!
さて。
とある魚が、空を自由に飛ぶ鳥に憧れる。
魚を食べ損ねた鳥に「空の広さを味わえないなんて可哀想な魚だ」と馬鹿にされたのもあって、悔し涙を流すんだ。
海の中でしか生きられない自分は、なんて不幸なんだろうって。
空の世界に生きる事が出来たら、もっと素晴らしい気分で生きる事ができるだろうって。
それを嘆いているところに、何を描けばいいかわからない画家が訪れる。
魚の話を聞いて……
……いや、画家と魚がどうして話せるのって言わないでよ。
それなら鳥と魚が話すのもおかしいでしょうが。
あの時は絵本作家になりたかったから、まあそのあたりはファンタジーで。
で、画家は色んな時間の空の絵を描いては魚に見せてあげるの。
朝の時間には朝の空を。
夕焼けの時間には夕焼け空を。
夜には夜空を書いて、海に沈めては空の様子を魚に見せてあげたの。
それを見た魚は
「ああ、空は海と同じ色をしていて、海と同じ広さなんだ。 それならば、空を飛ぶ鳥と海を泳ぐ魚、優劣など存在しないんだ」
って納得するとか、なんかそういう話。
そんでもって、魚に見せるために夢中で絵を描くうちにキャンバスが埋まった画家は、その絵を集めて個展を開いて有名になるってオチよ。
win-winの関係エンド!
なんだろうな、小さな親切大きな幸せ?
違うな。
遠くばっか見てると足元掬われて幸せ逃すぜーって教訓を書こうとしたんだと思う。
あたしたちもさ、大事にしていきたいよね。何とまでは言わないけど。
前も言ったよね。
あたしの配信とか動画見に来てくれてるってことは、前世とか前前世とか、もっと前に関わりがあったってこと。
まあ、その事実に気付いてるのはあたしだけだけど……
だからさ、あたし見て浮かんだ言葉を…そーね、三つぐらい教えてくれたら、頑張って思い出すよ。
前世の君と、あたしの思い出!
ちょっと違う記憶も混ざるかも知んないけど、さすがにそこはねー。
一か月前に食べた晩御飯とか君も思い出せないでしょ?
あたしだってそうだもん。いや、待てよ……一か月前のこの日……お肉の賞味期限当日で……
って、ごめんごめん。どうでもいいこと思い出すところだった!
とにかくさ、話半分で付き合ってよ。
じゃあ、またね。次の夜にでもお会いしましょ。
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