第17話
正直、ゴウの数値が減るのは見ていて辛かった。
どんな人の数値でも毎日増減を繰り返しているのだから当然のことなのだけれど、ゴウには常に高い数値を保っていてほしい。
好きだからこその願いだった。
「ねぇ、説明聞いてる?」
丸いテーブルを挟んで正面に座っているヤヨイに声をかけられて我に返った。
今日はかねてより計画していた勉強会当日だ。
ヤヨイの家にあたしと、他2人の生徒が集まっている。
みんなあたしより成績のいい子ばかりだ。
「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
そう返事をしてヤヨイの数値を確認する。
成績も良く、生活態度も良好。
その上運動神経も悪くないヤヨイの数値は今日も上位だ。
「なにか心配事でもある?」
その上友達思いだ。
イジメに関してはちょっと思うところがあるけれど、それ以外はヤヨイは完璧だと言えた。
あたしの友人としてふさわしい相手だ。
「後で相談する。今は勉強しなくちゃね」
あたしは気を取り直して教科書へ視線を落としたのだった。
☆☆☆
勉強ができる子たちに囲まれていると、自然と自分のペンも進んでいく。
わからなくて躓いていると、すぐに誰かが声をかけてきてくれた。
「すごい。みんなの説明わかりやすくてどんどん解けていく」
あたしは回答欄を見つめて素直に感動した。
1人なら時間がかかって解けないような問題でも、今日はスラスラと解けて課題はすでに終わってしまった。
「ありがとう。先生の説明って専門的な言葉が多くてわかりにくいでしょう? それをメモしておいて、あとから解釈してるの」
ヤヨイの説明にあたしは頷いた。
確かに、先生の説明は時々独りよがりになっている。
自分が理解できているから、生徒も理解できていると思い込んで進めてしまうのだ。
「こんなに簡単に解ける問題だとは思ってなかったなぁ」
「それで? アンリの悩みってなに?」
勉強がひと段落ついたこともあり、ヤヨイがさっそく聞いてきた。
あたしはチラチラと3人の表情をうかがった。
3人とも好奇心の視線をあたしへ向けているのがわかる。
「ヤヨイは好きな人いる?」
試しに質問してみると、3人の瞳が同時に輝いた。
ヤヨイは左右に首を振り「いない」と、応える。
他の2人も好きな人や彼氏はいなさそうだ。
勉強ばかりしているから、出会いやチャンスが巡ってこないのかもしれない。
けれどさすがにあたしと同じ女子高生だ。
恋の話だとわかった途端、表情が緩んで笑顔になるのがわかった。
なんだかんだ言って、みんな恋愛話は好きなのだ。
「アンリは好きな人いるんだね?」
「うん……」
「それってゴウ君?」
ヤヨイに聞かれてあたしは目を見開いた。
まさかバレているとは思っていなかった。
「どうしてわかったの?」
「だって、ゴウ君と会話してる時のアンリ、嬉しそうだもん」
ヤヨイがそう言うと、他の2人も同意して頷いている。
そんなにバレバレだったのかと、恥ずかしくなった。
「でも、ゴウ君が相手なら大丈夫じゃない?」
ヤヨイの言葉にあたしは首をかしげた。
「大丈夫ってどういう意味?」
「付き合えそうって意味だよ」
その言葉は素直に嬉しかった。
けれどそれと同時に呼び出された日のことを思い出してため息が出てしまう。
「うまく言ってないの?」
友人の1人が身を乗り出して聞いてくる。
「実はこの前、ゴウに呼び出されたんだけどね……」
あたしは渡り廊下での出来事を3人に話して聞かせた。
3人は時々目を見開き、きゃーっと黄色い声を上げ、だけど最後にはあたしと同じように落胆した表情になってしまった。
「放課後の呼び出しなんて告白だと思うじゃん?」
あたしの言葉にヤヨイは何度も大きく頷いている。
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