第18話
「それはゴウ君が悪いよね。誰だって期待してついて行っちゃうよ」
女子生徒たちもあたしの気持ちに同意してくれている。
「それに、イジメを仲裁を女子に頼むなんて男らしくない」
ヤヨイは御立腹の様子で腕組をしている。
「でもまぁ、それ以外はいい男だよね。アンリに似合ってると思うし」
「ありがとう。でも、今回の件でゴウがあたしのことをどう思ってるのかわからなくなっちゃった……」
それまでは幼馴染で、ゴウと一番仲のいい女子はあたしだと胸を張って言うことができた。
でも今のゴウはアマネのことを見ているのではないかと、勘ぐってしまう。
「アンリとアマネはずっと仲良しだったもんね。でもきっと大丈夫だよ、ゴウ君だってわかってくれる」
それはイジメを仲裁できないことを理解してくれる。
という意味だろうか。
また、胸の中に苦い気持ちが湧きあがってくるのを感じた。
だけどそれはほんの一瞬で消えていく。
以前感じたときよりもずっと簡単に消滅してしまった。
「アマネなんかに捉われることないよ」
ヤヨイの言葉にあたしは頷いたのだった。
☆☆☆
勉強会が終わってから、あたしとヤヨイの関係は更に深いものになった気がした。
昼休憩時間、あたしはヤヨイたちと一緒にお弁当食べていた。
「イツミ、またやってるね」
振り向いてみれば、イツミがアマネのお弁当箱をゴミ箱へ捨てているところだった。
アマネ本人はトイレにでも行っているのか、教室内に姿はなかった。
どうしてお弁当箱を机に出してトイレに行ってしまうんだろう。
自分がイジメられっ子だという自覚がないのかもしれない。
あたしだった、教室から出るときは必ず鞄を持って移動するだろう。
でも仕方がない。
アマネにはそんな機転がなく、だからこそイジメられているのだから。
やがてアマネが教室へ戻ってくると、あちこちからクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
アマネは自分のお弁当箱がなくなっていることに気が付き、机の中や鞄の中を確認している。
しかし、どこにもあるはずがない。
アマネのお弁当箱はごみ箱の中なのだから。
やがてアマネはみんなが笑っていることに気がついてサッと青ざめた。
気がつくのが遅すぎる。
あちこちからアマネをバカにする笑い声が聞こえてきている。
アマネは青ざめた表情でイツミの席まで移動し「あたしのお弁当、知らない?」と、声をかけている。
その声はひどく震えていて、イツミに対して怯えているのがわかった。
前までのアマネなら、会話くらいなら普通にできていたのに、今のアマネにはそれすら難しくなってしまったようだ。
「なに? 知らなぁい」
イツミはそう答えるとそっぽを向いてスマホをいじりはじめた。
イツミの取り巻きたちはアマネの行動を監視するように見つめて、アマネがお弁当を探して動くたびに笑い声を上げている。
その時、ふと思いついたことがあった。
ここでアマネを助ければあたしの数値は跳ね上がるんじゃないだろうか?
誰からも見捨てられたアマネに手を差し伸べる自分を想像してみた。
でも、その想像はすぐにかき消してしまった。
アマネに声をかけることは簡単だ。
だけど、それが原因で自分がイジメられるようになったら本末転倒だ。
あたしは今勉強もスポーツも上達してきているから、そんなことをしなくても数値は上がってきているはずだった。
「次の授業なんだけどさぁ」
あたしはアマネから視線をそらし、教科書を取り出したのだった。
☆☆☆
「アンリ。ちょっといいか?」
放課後になり、ゴウが再びあたしに声をかけてきた。
一瞬心臓が跳ねるけれど、自分の期待を胸の奥へと押し込めた。
「なに?」
「話があるんだ」
ゴウはこの前と同じように真剣な表情だ。
きっとまたアマネの話になるのだろう。
「あたし、今日はバレー部の見学に行くの」
「バレー部? 今さら部活に入るのか?」
その言い方に一瞬気分が悪くなった。
2年生から部活動に入ったらダメだなんて規定、この学校にはない。
もちろん、部活に入るつもりじゃなかった。
成績が上がってきたから今度はバレー部のアキホともっと仲良くなるつもりなのだ。
文武両道で成績を収めることで、あたしの数値はもっと上がるはずだからだ。
「少しでいいから話せないか? アマネのことが気になるんだ」
やっぱりアマネのことか。
あたしは大げさにため息を吐きだした。
「ゴウはどうしたいの?」
「え?」
「そんなにアマネのことを気にしていたって、全然行動に移してないみたいだけど?」
つい、強い口調になってしまう。
「それは……」
そこまで言って言葉を詰まらせている。
言いにくいことのようで、周囲を気にしているようだ。
「アマネのことが好きなの?」
「それは違う!」
あたしの質問にゴウは驚くほど大きな声で否定した。
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