第22話
☆☆☆
この日、アマネは学校を休んでいた。
本人がいないことでクラスの男子たちは「あの体だもんな。男誘って学校サボったんじゃねぇの?」「案外、もう妊娠してたりしてなー!?」なんて、下品な言葉を連発している。
あたしはそいつらの額へ視線を向け、そして鼻で笑った。
案の定、アマネに負けず価値のないやつらばかりだ。
どれだけ人間が集まったって、価値がないやつばかりで集まるとロクなことがないと証明しているようなものだった。
それに比べてあたしは……。
視線をヤヨイへ戻すと、その額には53012の数字が見える。
ヤヨイの価値は最近どんどん急上昇していて、今ではクラス1位をキープしている状態だ。
あたしが話しかけるまでは一匹狼のような雰囲気だったけれど、その皮がはがれて気さくになってきたのがいいのかもしれない。
でも、油断しているとすぐに価値は暴落する。
ヤヨイの周りに集まってくる子たちの数値も、ちゃんと確認しておかないといけない。
「今日はアマネがいなくてつまんないねぇ?」
そう声をかけてきたのはイツミだった。
見るとイツミはニヤついた笑みをこちらへ向けている。
昨日、あの後イツミがなにをしたのかあたしは知らない。
でもきっと、ろくでもないことをしてきたのだろう。
その証拠に、イツミの額の数字はついに1万を切っていたのだ。
これじゃアマネとそう変わらない。
あたしはイツミに返事をすることなく、ヤヨイへ向き直った。
あたしの友達は高い数値じゃなきゃいけない。
もう、イツミにもアマネにも用はない。
そう考えたとき、ひとつのアイデアを閃いた。
そうだ、このままイツミを最下位まで突き落とすことはできないだろうか?
「ねぇイツミ、面白い話があるんだけど聞く?」
「なに? 聞く聞く!」
イツミはすぐに目を輝かせて食いついてくる。
このイツミが断るはずがないと思っていた。
あたしはヤヨイたちへ断りを入れて、イツミと2人で教室を出た。
そのままひと気のない廊下へ移動する。
「なに? そんなに人に聞かれたらまずいことなのぉ?」
「そうだね。だけどイツミが信じるかどうかはわからない。もしかしたら、信じないかもしれないし」
「なにそれ、気になるんだけど」
アマネが休んでいて暇なイツミは今すぐにでも話を聞きたくてうずうずしている様子だ。
誰もいない渡り廊下へ移動してきたあたしはアマネの額にある数字を確認した。
相変わらず1万を切っている。
「あのさ、人の価値が数値化して見えてるって言ったら、どうする?」
あたしの質問にイツミはキョトンとした表情を浮かべた。
「なにそれ?」
「勉強ができる人は勉強ができない人より価値が高い。スポーツがでできる人は、できない人より価値が高い」
「それはなんとなくわかるけど……あ、テスト結果のことを言ってるの?」
あたしはイツミの言葉に噴き出してしまった。
「違うよイツミ。あたしにはその人の価値が数値化して見えているの。額の所に数字が書かれているように見えるんだよ?」
あたしはイツミの額を指さして言った。
イツミはまたキョトンとした表情になり、それから大声をあげて笑い始めた。
「あはは! なにそれ! 人の額に数字が見えるの?」
「そうだよ。やっぱり、イツミは信じないよね」
あたしはガッカリした表情を浮かべてため息を吐きだした。
「だって、そんなの普通信じないでしょ?」
「わかった。ごめん、もう話は終わり」
落胆して見せて、イツミに背を向ける。
「ちょっと待ってよ! その数字、本当に見えてるの?」
ほら、食いついた。
「見えてるよ?」
「あたしの数字も?」
「うん。見えるよ?」
躊躇することなく言いきると、イツミは目を見開き、そして思案するようにあたしを見つめた。
「イツミなら信じてくれると思って、思いきって告白したんだけどね。無理だよね、急にこんな話をされても……」
「待ってよ、信じないなんて言ってないよ?」
「信じてくれるの?」
イツミは少し困り顔になった後「うん」と、小さく頷いた。
まだ考えているようだけれど、とりあえずはよしとしよう。
「よかったぁ! イツミなら絶対に信じてくれると思ってたんだよね! だってイツミの価値はクラス内で一番高いんだから!!」
あたしは大げさに安堵してそう言って見せた。
「え? あたしの価値ってそんなに高いの?」
「イツミ、自分では気がついてないかもしれないけど、かなり才能のあるすごい人だよ? おまけにボランティア部でしょう? 価値が上がるのは当然だと思うよ?」
あたしの言葉にイツミの表情がみるみる明るくなっていく。
「本当に本当? 嘘じゃないよね?」
「嘘ついてどうするの? あたしは一番価値の高いイツミだからこそ、この話をしたんだよ?」
「そっか……そうなんだ!」
イツミはすっかり浮かれてしまっていて、頬も赤く上気している。
「1度クラスで1番の価値になるとね、その後価値が下がることはないんだよ」
「そうなんだ!?」
「うん! だから、イツミの価値は不動の1位ってこと! これから先どんなことをしても、イツミは常にトップなんだよ」
あたしは嘘を重ねる。
罪悪感なんて少しも感じなかった。
「そっか。なにをしても……か……」
イツミが悪だくみをする時のような、いやらしい笑みを浮かべる。
「いいなぁイツミは。うらやましいなぁ」
「えへへ。いいこと教えてくれてありがとうアンリ」
イツミは上機嫌にそう言うと、あたしを置いてさっさとクラスへ戻って行ってしまった。
これからイツミの素行は更に悪化していくだろう。
数値はどんどん減っていき、あたしのライバルではなくなるのだ。
「バーカ」
あたしはイツミの後ろ姿へ向けてそう呟いたのだった。
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