第21話

自宅に戻ってのんびりとテレビを見ていると、ゴウからメッセージが届いた。



《ゴウ:アマネの様子、どうだった?》



そのメッセージにうんざりしている自分がいる。



最近のゴウは話をすればすぐにアマネのことを口にするようになった。



それがうっとうしい。



《アンリ:今は誰にも会いたくないみたい。ゴウが心配してるって伝えたけどいい迷惑って言ってたよ?》



《ゴウ:そっか……》



適当なメッセージ対してゴウは本気で落ち込んでいるようだ。



《アンリ:ゴウはアマネのことが好きなの?》



《ゴウ:は? なんでそうなるんだよ?》



《アンリ:最近アマネのことばかり気にしてるじゃん》



《ゴウ:そりゃ気になるだろ。友達がイジメられてるんだから》



友達……。



本当にそう思ってるんだろうか?



相手への心配が、気がついたら愛情に変わっていたりしないだろうか?



あたしはスマホを握り締めて勇気を固めた。



このままじゃいけない。



あたしはゴウのことが好きで、誰にも取られたくないのだ。



イツミにだって、負けたくはない。



《アンリ:じゃあ、ゴウは誰のことが好き?》



たったそれだけの文章を打つのに手の平はぐっしょりと汗ばんでいた。



ゴウがなんと答えるか、不安が胸に膨れ上がっていく。



《ゴウ:俺はアンリのことが好きだよ》



その返事が来たのは、1時間後のことだった。


☆☆☆


翌日、あたしはコンビニでゴウと早い時間に待ち合わせをしていた。



「おはよう」


制服姿で声をかけてくるゴウは昨日までと何も変わらない。



だけど照れ臭くて、あたしはゴウを直視することができなかった。



付き合い始めたというだけで、どうしてこんなに意識してしまうようになるんだろう。



昨日までの景色が180度変化したように見えた。



「おはよう」



「昨日のメッセージのことなんだけど…‥あれ、嘘じゃないよな?」



ゴウの言葉にあたしは「嘘なわけないじゃん」と、早口で言った。



ゴウとあたしは両想いだ。



それは薄々感づていたことだった。



「そっか。よかった」



ゴウが安心したようにほほ笑む。



「でも、ゴウはライバルが多いから心配」



「そんなに多くないだろ」



「多いよ。ゴウは気がついてないだけだよ」



学校までの道のりを2人でゆっくりゆっくり歩いて行く。



「アンリだって気がついてないだけで、ライバル多いんだからな」



「なにそれ。あたし告白されたことなんてないし」



「それは男どもに勇気がないからだろ」



「ゴウだって同じでしょう?」



昨日、告白のきっかけをつくったのはあたしだった。



「確かにそうかもな……」



ゴウは頭をかいて呟く。



「ゴウはいつからあたしのことが好きだったの?」



「結構前から。でも最近余計に好きだなって思い始めてたんだ」



「どうして?」



聞くとゴウはあたしの頭をなでて「最近すごい頑張ってるから」と、言った。



「頑張ってる?」



「あぁ。勉強とかスポーツとか。先生たちも噂してたぞ? 成績も上がってきてるってさ」



その言葉にあたしは納得した。



あたしは確かに最近勉強もスポーツも頑張っている。



でもそれは自分の数値を高めるためだ。



自分の価値を上げることで、もっともっといい出会いがあるかもしれない。



高校を卒業した後にだって、色々と役立つことはあるだろうし。



「それは人間関係を改めたからだよ」



「え?」



「今までは学級委員長のヤヨイや、バレー部のアキホと仲良くすることなんてなかった。だけど、みんなと仲良くすることで色々なことを吸収できるようになったの」



「それはいいことだと思うけど、その分アマネと距離ができてないか?」



ゴウの言葉にあたしはため息を吐きだした。



またアマネの話か……。



「仕方ないよ。アマネは誘っても付いてこないんだもん」



あたしはスラッと嘘をつく。



本当は、アマネを誘ったことなんて1度もない。



アマネが一緒だと勉強ははかどらないし、スポーツだってお話にならない状態になる。



あたし自身が成長するチャンスをアマネに取られてしまうことになるのだ。



「そうなんだな……」



ゴウはあたしの話を真に受けてまた考え込んでしまった。



「それより、次の休みの日は部活はあるの?」



「いや、試合がないから休みだよ?」



あたしはジッとゴウの顔を見つめた。



付き合い始めて最初の休日だ。



「どこか行く?」



ゴウの言葉にあたしはニッコリとほほ笑んだ。



そして、「行く!」と、元気よく答えたのだった。

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