第23話
初めてのデートは駅前の散策だった。
以前と同じコンビニで待ち合わせをして、2人で肩を並べて歩く。
幼馴染だからゴウの私服も見なれたものだったけれど、カップルになって初めて見る私服はまた違ったもののように見えた。
とにかく、ゴウのすべてがキラキラと輝いているのだ。
「なんだか照れるね」
並んで歩くだけで緊張して、手に汗がにじんでくる。
それはゴウも同じようで、ひっきりなしにズボンで手の平を拭いている。
「本当だな。アンリとこうして歩くことがあるなんて思ってなかったし」
ゴウは会話をしながらもこちらを向こうとしない。
しかし、ゴウの耳はほんのり赤くなっていて、照れているのがわかって嬉しくなった。
「今日はどこへ行くの?」
「駅をブラブラしようと思ってる。アンリ、どこか行きたい場所ある?」
この会話のひとつひとつがカップルになったのだという実感をもたらしてくれる。
「そういえば、この前家の近くでイツミに会ったよ」
「イツミ?」
ゴウはしかめっ面をして聞き返してきた。
イツミにはいいイメージを持っていないようだ。
クラス内で堂々とイジメを行っているのだから、当然のことだった。
「うん。パンケーキを食べに行くって言ってた」
「そう言えば近所にできたんだっけ。今度一緒に行くか?」
「うん!」
あたしは笑顔で頷いた。
すぐに誘ってきてくれるのが嬉しい。
「そういえば、アマネはどうしてるかな」
駅前の通りへ出たとき、ゴウがそんなことを言い出した。
「さぁ……ずっと学校休んでるよね」
「来られないんだろ。あんなことがあったんだから」
ゴウの声色はなんだか怒っている感じがした。
話題を変えるため、あたしは行列ができているかき氷専門店を指差した。
「ねぇ、あのお店すごい人だね! 美味しいのかなぁ?」
「今そんな話はしてないだろ?」
「え?」
「アマネのこと、気にならないのか?」
強い口調で言われて戸惑った。
どうしてゴウが怒っているのかわからない。
「どうしたの急に?」
「急にじゃないよ。俺何度もアンリに言ってきたよな? アマネのこと助けてやってほしいって」
「そんなこと言われても、無理なものは無理だよ」
あたしは思わず顔をしかめてそう言い返していた。
「ゴウだってわかってるよね? あたしが仲裁すれば、今度はあたしがイジメられる」
「だから、そうなったら俺が助けてやるって言っただろ?」
ゴウが苛立っているのが痛いほど伝わってくる。
初めてのデートなのに、どうしてアマネのことなんかで喧嘩をしなければいけないんだろう。
途端に悲しくなってきた。
「助けるってそんな簡単なこと?」
「え?」
「アマネは女子更衣室で制服を引き裂かれたんだよ? ゴウはどうやって助けるつもり?」
「それは……」
さすがに黙り込んでしまった。
ゴウが目の届かない場所なんて沢山ある。
イジメようと思えば、バレないようにイジメることだってできるんだ。
「あたしがアマネと同じ目に遭ったらどうするの?」
「……そうだよな」
ゴウはやっと頷いてくれた。
あたしはホッと胸をなでおろす。
ようやくあたしの気持ちを理解してくれた。
そう、思ったのに……。
「実は、こんなメッセージが送られてきたんだ」
歩道の横で立ち止まり、ゴウはスマホを見せてきた。
「アンリには見せないようにしようと思ってたけど、やっぱりこんなの無視できなくて……」
スマホ画面にはA組の男子だけで作られたトークが表示されていた。
そこにはアマネの写真が並んでいたのだ。
イツミが撮影した写真を加工したもののようで、全裸の女性の体にアマネの顔がくっつけられている状態だった。
一瞬、吐き気がこみ上げてくる。
これを作ったのはきっとあのバカグループだろう。
もしかしたら、イツミがけしかけて作らせたのかもしれない。
クラスメートをこんな風に見ていたのかと思うと、気持ちが悪くなった。
「これはまだ画像だし、加工したものだってみんなわかってる。だけど、エスカレートしたらどうなるかわからないぞ?」
確かに、ゴウが言うような懸念があることは間違いないだろう。
「でもさ、それってあたしたちに関係ないよね?」
アマネの話をすぐに切り上げたくて、あたしはついそんなことを言っていた。
ゴウが驚いた表情を浮かべてあたしを見つめる。
「本当にそう思ってるのか? あれだけ仲が良かったのに?」
「そうだけど、アマネが勉強もスポーツもできなくて、クラスから浮いてたのって昔からだったよ? あたしたちが一緒にいてあげたから、今までイジメられてなかっただけ」
歩きながら話をしていると、甘い香りが鼻を刺激した。
一瞬立ち止まってどんなお店か覗いてみたいと考えたけれど、ゴウがあまりに鋭い目をこちらへ向けているので、とてもそんなことを言う雰囲気じゃなかった。
せっかくのデートなのに、アマネのせいで台無しだ。
「アンリが一緒にいてやれば、イジメられなくて済んだんじゃないのか?」
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