第24話

「そうかもしれないね? だけどあたしはあたしの人生があるの。アマネのために自分の人生を台無しにするなんてありえないよね?」



あたしは間違ったことは言っていないはずだ。



あたしは自分のために、付き合う相手を選ぶようになった。



それはごく自然なことだ。



「でも、友達だったのに……」



ゴウはまだ納得いっていない様子だ。



「成績の悪い友達より、成績のいい友達が欲しい。スポーツができない友達より、スポーツができる友達が欲しい。そう思うことって、そんなにおかしい?」



あたしの質問にゴウは黙りこんでしまった。



「今アマネと一緒にいたら、あたしまでイジメられる」



「そうだな……」



ゴウがため息を吐き出して頷いた。



ようやく理解してくれただろうかと喜んだ時、電信柱のカゲからアマネが現れたのだ。



あたしは驚いて目を見開く。



「アマネ!?」



アマネは暗い表情で、今にも泣きだしてしまいそうな雰囲気をしている。



「今の、全部聞いてもらってたんだ」



ゴウの言葉にあたしは「は!?」と、眉を寄せた。



「今日、アンリとデートするって言うと、どうしてもアンリの気持ちが知りたいって言われて、それで呼んだんだ」



あたしは唖然としてゴウとアマネを交互に見つめた。



アマネは最初からあたしの話を聞いていたのだ。



ゴウも、それを知っていてあたしから色々と聞きだそうとしたのだ!



そう理解した瞬間、アマネに対して怒りがこみ上げてくるのがわかった。



「なにそれ。あたしの初めてのデートだってわかっててこっそりついてきたワケ?」



あたしは一歩前へ踏み出し、アマネへ向けて敵意をむき出しにする。



「どうしても……アンリの気持ちが知りたくて」



アマネの声は今にも消え入りそうだ。



しかし、その目はしっかりとあたしを見据えている。



まるで、あたしが悪いことをして咎めているような視線だ。



「あんたのやってることって最低だよ」



冷たく言い放つとアマネは目を見開いてあたしを見つめた。



「アンリなら、助けてくれると思ったのに……」



「そんなこと言われたって知らないよ。あたしはアマネの奴隷じゃないんだから」



「おいアンリ、そんな言い方ないだろ?」



ゴウに言われて、あたしはふくれっ面をしてそっぽを向いた。



とにかくデートを台無しにされたことが腹立たしかった。



ゴウもゴウだ。



2人にとって特別な日にアマネを呼ぶなんてひどい。



「あたしはアンリのこと、友達だと思ってた。でも、アンリは違ったんだね」



アマネの言葉が一瞬胸に突き刺さる。



アマネと2人でお昼を食べた時の光景を思い出し、絶句してしまいそうになった。



でも、ここは心を鬼にしなければならない。



「あたしの友達は、あたしが決める」



そう言うと、アマネは大きく息を吸い込んであたしを見据えた。



目には涙が溜まっている。



「つまりそれは……もう、あたしは友達じゃないってことだよね?」



その質問にあたしは肯定も否定もしなかった。



ゴウが隣でジッとあたしのことを見つめているけれど、言ったことを取りやめたりはしない。



ここで優しさを見せてしまえばアンリはきっとまたあたしに頼りはじめることだろう。



「……わかったよ。あたしはアンリと絶交する」



アマネは小さな声でそう言うと、あたしに背を向けて歩きだしたのだった。


☆☆☆


スイーツ屋さんはコッテリとした甘い香りが充満していた。



さっきまでこの臭いに惹かれていたのに、ゴウと一緒に店内に入ったときには吐き気を感じた。



注文できたのはアッサリしたレモンジュースだった。



「本当によかったのか?」



ゴウは運ばれてきたコーヒーに角砂糖を2つ入れてかき混ぜながら言った。



「言ったでしょう? あたしの友達は、あたしが決めるって」



あたしは本気でそう思っていた。



額に数値が見え始めた頃から、そうなるように努めてもいた。



今あたしの周りにいる友人たちはみんな数値が高く、人として価値のある子ばかりなのだ。



そんな子たちに囲まれているからこそ、あたしは成績が上がり、スポーツでも運動部の子たちと引けを取らないようになってきた。



なにも間違えたことなんてしていない。



それなのに、アマネに言われた『絶交』という言葉がずっと頭の奥で繰り返されていた。



「もうこの話は終わり。せっかくのデートなんだから楽しまないと!」



あたしは気を取り直すように、大きな声でそう言ったのだった。

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