第4話
☆☆☆
それからあたしは先生に色々なことを話した。
日常生活での嫌なこと。
好きなこと。
友達のこと、クラスメートのこと、そしてゴウのこと。
「屋島君は先生たちの間でも有名よ。サッカーの選手として」
先生の言葉にあたしは頷いた。
ゴウは幼稚園の頃からずっとサッカーをしていて、地元ではなかなか有名な選手なのだ。
今ももちろん、サッカー部に所属している。
「そっか。屋島君のことが好きなのね?」
「はい……」
素直に頷いてから、ハッとして顔をあげ、ブンブンと左右に首を振った。
顔がカッと熱くなるのを感じる。
「ち、違います! ゴウとはただの幼馴染です!」
慌てて言えば言うほど、先生は笑顔になる。
何を言っても無意味だと思い、あたしは途中で口を閉じてうつむいた。
「恋をしたっていいのよ? それが成長につながるんだから」
「……はい」
先生にすべて見透かされているような気がして恥ずかしく、なかなか顔をあげることができない。
その時、次の授業開始5分前の予鈴が鳴り始めた。
「またなにかあったらいらっしゃい。いつでも話は聞くから」
そう言ってくれる先生の額には、やっぱり数字が書かれていたのだった。
☆☆☆
結局、保健室へ行ってもなにも解決することはなかった。
ちょっとした人生相談に乗ってもらったくらいなものだ。
でも、そのおかげで少し気分が軽くなったのも事実だった。
「次の問題を東郷」
突然名前を呼ばれ、あたしは慌てて立ち上がった。
外国語の授業を受けていたのだけれど、まだ教科書すら開けていない状態だ。
「えっと、あの……」
オロオロと黒板と教科書を交互に見つめるばかりのあたしに、先生は盛大な溜息を吐きだした。
「なんだ、授業を聞いていなかったのか」
「すみません……」
素直に謝るしかなかった。
視線をチラリと先生へ向けてみると、眉を吊り上げて怒っているのがわかった。
その額にもまた数字……。
「しっかりしろ!」
怒られるあたしを見てイツミが「あははっ! ダッサー!」と呟く声が聞こえてきたのだった。
☆☆☆
このままじゃ先生を怒らせてみんなから笑われるだけだ。
外国語の授業が終わると同時に、あたしは鞄の中の教科書やノートを片付けはじめた。
「あれれー? 学校はまだ終わってないのに帰るのぉ?」
イツミがケラケラと笑いながら近づいてくる。
あたしはそんなイツミを睨みつけた。
「今日は体調が良くないから相対するの」
「早退? もしかして、さっきの問題を答えられなかったから逃げるのぉ?」
「違う!」
イツミの話し方がしゃくに触り、思わず大きな声を上げてしまった。
「キャア! こわーい! ゴウ君助けてぇ!」
体をくねらせながらゴウの元へとかけていくイツミを、あたしは睨みつけたままだった。
「アンリ、大丈夫?」
本気で心配して声をかけてきてくれたのはアマネだ。
「心配かけてごめんね。でも大丈夫だから」
あたしはアマネへ向けて無理に笑顔を浮かべた。
「イツミのことはあまり気にしない方がいいよ?」
「わかってるよ」
あんなのに踊らされるつもりはない。
だけど、額に数字が見えるという異常事態でイツミの行動を我慢することができなかったのだ。
イツミは人の気も知らないで、ゴウにベタベタくっついて甘えている。
「本当に早退するの?」
「うん、ちゃんと病院に行ってみる」
「そっか」
「心配しないで? なにかあれば、連絡するから」
あたしの言葉にアマネはようやく安心したように、頷いてくれたのだった。
☆☆☆
学校を早退して向かったのは学校の近くの眼科だった。
体の調子はそんなに悪くないから、この目を確認してもらおうと思ったのだ。
ところが、学校を出て眼科まで歩くだけで何人もの人とすれ違い、その全員の額に数字が見えてしまったのだ。
犬の散歩をしている70代くらいの紳士。
学校が早く終わったのか自転車に乗って遊びに行く途中の小学生。
庭の花に水をやっている主婦。
「どうなってるの……」
すべての人々の額に数字が見える現象に、次第に心臓がドキドキし始めた。
背中に嫌な汗が浮かんできて、呼吸も荒くなる。
額に数字を書いた人々はいつもと変わらぬ日常を過ごしていて、数字のことを気にしている様子はない。
彼らはあたしとは違い、数字が見えていないのだろう。
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