第12話

☆☆☆


「アンリ。今日のあんたなかなかやるじゃあん」



昼休憩中声をかけてきたのはイツミだった。



「え?」



なんのことかわからず首を傾げる。



しかしイツミはいつも以上に上機嫌な様子で鼻歌なんて歌っている。



「アマネのことだよぉ」



「あぁ……」



体育が終わるころ、ついキツク言ってしまったことを思い出した。



その瞬間胸にチクリと痛むものを感じた。



一番仲のいいアマネにヒドイことを言ったかもしれないと、罪悪感が胸に膨らんでいく。



でも、あたしは間違ったことは言っていない。



アマネだって、そこは理解しているはずだった。



人の意見を素直に聞き入れることなく、言い訳ばかりしていては成長できない。



「アンリがアマネに対してあんな風に言うなんて意外だったなぁ」



「……別に」



あたしはぶっきら棒に返事をする。



あたしだってアマネにあんな言い方をしたかったわけじゃない。



とにかく変わって欲しかった。



アマネ自身が変われば数値だってきっと変わってくるんだから。



「あたしアンリのこと見直したんだよぉ?」



イツミはやけに人懐っこい笑みを浮かべている。



嫌な気分ではないが、日頃から距離間のあるイツミなのでどう返事をしていいかわからなくなる。



「ゴウのこともさぁ、あんたがライバルなら頑張れそう」



突然出てきたゴウの名前に心臓がドクンッとはねた。



イツミは本気でゴウのことが好きなんだろうか?



その表情を見てみても、本心はなにもわからなかった。



ぼんやりとイツミの話を聞きながら、あたしの視線は自然とイツミの額へと向かってしまう。



12530。



イツミの数値は同じような場所で増減を繰り返しているようだ。



クラスメートたちへの態度は悪いけれど別のところで取り返しているのだろう。



「イツミって部活してるっけ?」



「は? なに急にぃ?」



「いや、なんとなく気になって?」



「ボランティア部に入ってるよ。施設に行って紙芝居したり、街の清掃作業に参加したりぃ」



意外な一面にあたしは瞬きを繰り返した。



「そうだったんだ?」



「そうだよぉ? 活動は主に学校が休みの日だから、ほとんど帰宅部だけどねぇ?」



そう言ってイツミは楽しげな笑い声をあげた。



「じゃあ、休みの日はほとんどボランティアをしてるの?」



「そうだよぉ?」



「遊びには?」



「ボランティアが終わってからとか、放課後とかかなぁ?」



イツミはなんでもないことのように言っているけれど、これは数字に大きく関係していそうだ。



それに比べてアマネは部活もしていないし、ボランティアをしているとも聞いたことがなかった。



これじゃイツミに大差をつけられて当然だ。



あたしは内心大きなため息を吐きだした。



あたしの親友の数値は今95668。



これがイツミを追い越すのはなかなか難しそうだ。



あたしは気を取り直し、イツミへ笑顔を向けた。



「ボランティアなんてすごいじゃん! 社会貢献してるって感じ!」



「え、そう? えへへ~そう言われると嬉しい!」



「あたし、もっとイツミのこと知りたいかも」



「本当? あたしも同じだよぉ!」



本当は普段のイツミの態度にムカついているけれど、ここは調子を合せておいた方がよさそうだ。



だって、自分の周りにいる人たちは少しでも数値が高い方がいい。



そっちの方が絶対に自分にとっても有利になる。



「そういえばイツミっていつもヤヨイの課題見てるよね? あたしも見せてほしいんだけど」



「あぁ、あの子のノートわかりやすくていい感じだよぉ?」



イツミは機嫌よく答える。



学級委員長であるヤヨイの数値はクラスでも1位2位を争っている。



絶対に仲良くなっておきたい相手だった。



「でも、次々ノート貸すのってちょっと嫌な気分にならない? だから、イツミがヤヨイのノートを借りたときについでに見せてくれるとかでいいよ」



「そぉお?」



イツミはピンと来ないようで首をかしげている。



イツミ自身が誰かにノートを借りられることはないだろうから、わからないみたいだ。



「まぁ。それでいいならいいけどぉ?」



「ありがとう。ヤヨイには内緒にしててね?」



学級委員長のヤヨイ、イツミからの文句がうるさいからノートを貸しているのだ。



あたしが素直に貸してほしいとお願いしても、きっと断られてしまう。



だからここはイツミと仲良くなってお願いするのが近道だった。



「おっけーい」



イツミは深く考えることもなく、ニコニコと笑顔で了承してくれたのだった。

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