値札人間

第16話

「学級委員長、後で先生に報告するんでしょう？」

あたしの問いかけにヤヨイは首をかしげた。

「え……？」

あたしは目を丸くしてヤヨイを見つめる。

「ここまで来ると、さすがに無理でしょ」

「でも、イジメだよ？」

「あたしだってターゲットにはなりたくない。そんなことで人生無駄にしたくないもん」

ヤヨイはそう言うと、参考書に視線を落としたのだった。

☆☆☆

「アンリ、ちょっといいか？」

放課後になり、1人で帰ろうとしているとゴウに話かけられて立ち止まった。

「どうしたの？」

ゴウとは相変わらずメッセージのやり取りや教室内でも仲良くしている。

関係は良好だと言えた。

今のゴウはとても真剣な表情を浮かべているので、顔を見た瞬間ドキッとしてしまった。

まさか…‥告白？

そんな淡い期待が胸に膨らんでいく。

「人のいないところで話そう」

ゴウに手を掴まれ教室を出る。

ゴウのぬくもりを感じながら、心臓がどんどん早鐘を打ち始めていることに気がついた。

放課後、人のいない場所へ移動して会話するなんて、少女マンガの世界みたいだ。

あたしは緊張を押し込めてゴウの後について行く。

到着したのは渡り廊下だった。

放課後になると誰も通らない、静かな場所だ。

「話ってなに？」

髪の毛を整え、心の準備を整えてゴウを見上げる。

ゴウの日焼けした肌が西日に照らされてキラキラと輝いている。

「あのさ……」

ゴクリと唾を飲み込み、言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。

「アマネのことなんだけど」

そう言われ、あたしは一瞬返事ができなかった。

アマネのこと……？

「な、なに？」

緊張していた気持ちが一瞬にして萎んでいくのを感じる。

「最近、イジメられてるみたいだけど？」

そんなの、同じクラスなんだからあたしに聞かなくてもわかってるハズだ。

内心落胆のため息を吐きだした。

「そうみたいだね」

「助けてやらないのか？」

ゴウの言葉にあたしは目を見開いた。

イジメられっ子を助けたら、今度は自分がイジメられる。

その構図はゴウだって理解しているはずだ。

「助けたらどうなるか、わかってるよね？」

「自分がイジメられるのが怖いのか？　それなら、俺が助けてやる」

ゴウが胸を張って言う。

しかし、あたしの心はときめかなかった。

アマネがイジメられていると知りながら、その仲裁をあたしに任せようとしている。

ゴウ本人は動く気がないのだ。

「それなら、最初からゴウが止めてあげたらいいじゃん」

あたしは冷たく言い放った。

あたし1人が悪者みたいに言われるなんて心外だ。

アマネイジメを知らないクラスメートなんて、今は誰一人としていないはずなのに。

「俺は男だから、首は突っ込めないだろ」

ゴウがそう言った瞬間、額の数字が歪むのを見た。

あたしはハッと息を飲んで見つめる。

数字は少し減った状態で再び額に刻まれた。

「ゴウ……それって逃げてるんじゃない？　イジメに男も女も関係ないよね？」

「それはそうだけど……」

ゴウはしかめっ面をしている。

「俺は、アマネとアンリは仲が良かったのに、今みたいな状況になって心配してるんだ」

その気持ちは本物かもしれない。

だけど、自分から動こうとしないことでゴウの数値は減ってしまったじゃないか。

それはゴウの考えたかが間違えているからだ。

「ごめん。今日はもう帰るね」

あたしは落胆した気分のまま、その場を後にしたのだった。