第15話

助けようとすれば、あたしが次のターゲットになるだろう。



「ちょっと、なに見てんの?」



女子生徒の1人に声をかけられ、あたしは笑顔を浮かべた。



「別に? 先生にバレないようにね」



あたしはそう言い、隣の個室に入ったのだった。


☆☆☆


ヤヨイと仲良くなったおかげであたしの成績はグングン上がってきていた。



抜き打ちテストも全然怖くない。



でも、それを面白くないと思う生徒もいた。



「最近全然遊んでくれないじゃん」



休憩時間に声をかけてきたのはイツミだった。



イツミ経由でヤヨイのノートを借りていたから、どうしてもイツミと仲良くなる必要があった。



でも今は違う。



ヤヨイに直接勉強を教えてもらっているから、イツミと仲良くする理由がないのだ。



それに、ヤヨイの数値はどんどん下がってきているのも気になっていた。



今では1万を切ってしまいそうなのだ。



このままいけばイツミがクラスで最下位の数値になってしまうかもしれない。



そうなる前に、距離を置いておこうと思ったのだ。



「イツミはイツミで楽しそうだから、邪魔しちゃ悪いと思って」



あたしはそう言ってほほ笑んだ。



イツミの数値が低くなった原因は明白だった。



アマネイジメの首謀者だからだ。



あの日、アマネに消しゴムを投げつけた時からずっとイツミはイジメを続けている。



いくら学校が休みの日にボランティアをしていたって、学校内でイジメをしていたんじゃ数値は上がらない。



「確かに、楽しいのは楽しいよぉ?」



イツミは下品な笑い声を上げて肯定する。



今日もどんな風にアマネをイジメるのか考えていたそうだ。



今のイツミはそんなことしか考えていない。



「あたしとヤヨイは今度勉強会を開く予定なんだけど、イツミも一緒にどう?」



来るわけがないと思いながらも、声をかける。



以前までのイツミならヤヨイのノートを見れると思って誘いに乗ったかもしれない。



だけど、今のイツミではダメだった。



まるで勉強から遠ざかっているのだから、勉強会なんかに興味が出るわけがなかった。



「んん~、あたしはいいや。それより、面白いことするから見ててね」



イツミはそう言うと、スキップをしながら自分の席へと戻っていったのだった。



「面白いことってなんだろうね」



ヤヨイが参考書から顔をあげて呟く。



「どうせろくでもないことだよ」



「最近、イツミのやってることってエスカレートしてるよね」



「うん……」



それはきっと、あたしがアマネから離れたせいだ。



あたしがいないとアマネもなかなか強気に出ることができない。



そしてイジメはエスカレートしていく。



あたしがアマネの親友に戻ればイツミの言動も少しはマシになるかもしれない。



でも、今のあたしにその気はなかった。



アマネは自分で自分の数値を知って、それを上げていく努力をした方がいいと思う。



そんなことを考えていたとき「やめて!」と声が聞こえてきてあたしは視線を向けた。



見るとイツミがアマネの頭にパックの牛乳を振りかけて遊んでいるのだ。



イツミと、その取り巻きたちが大笑いしている。



「くっさ! まじで最悪なんだけど!」



「泣いてないでちょっとくらい反抗すればいいのにねぇ」



遠くから見て笑っている生徒は好き放題言っている。



自分がターゲットにならないために、弱い相手を徹底的に痛めつけるつもりなんだろう。



「なんでこんなことするの……」



弱々しそう言い、アマネが顔をあげた。



一瞬視線がぶつかり、咄嗟に目をそらせた。



アマネのその表情はあたしへ向けて『助けて』と言っていた。



だけどあたしは気がつかないフリをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る