第39話

そう思っても、口には出てこなかった。



ただただ茫然と立ち尽くす。



「こんなヤツほっといて、もう行こうぜ」



「そうだねぇ!」



イブキとイツミが2人で歩きだす。



アマネが哀れんだ表情をあたしへ向けた。



「人の価値ばかり気にして、人を利用してたらかこうなるんだよ?」



こんな状況なのに、自分より劣っているはずのアマネに言われると腹が立った。



「ゴウは……ゴウはあたしのことを気にしてくれてるはず!」



あたしはそう叫んでスマホを取り出した。



そうだよ。



あたしとゴウとはちゃんと別れてない。



今からだって、やり直すことができるかもしれないじゃん!


身勝手な思考回路から、あたしはゴウへメッセージを送った。



《アンリ:ねぇゴウ。あたしたちやり直さない? 謝るから!》



しかし、ゴウからの既読がつかない。



何度メッセージを送っても、返事はない。



「もう、諦めなよ」



アマネがため息交じりにそう言い、あたしにスマホ画面を見せてきた。



そこに表示されていたのはアマネとゴウのツーショット写真だったのだ。



2人は仲良さそうに頬を寄せ合っている。



「なにこれ……どういうこと!?」



思わず、アマネに食って掛かった。



「ゴウはずっとあたしのことを心配してくれてたの。イツミとの関係を修復してくれたのも、ゴウだよ? それで……今はあたしの彼氏」



『今はあたしの彼氏』



その言葉にあたしは目を見開いた。



「嘘だよ……そんなことありえない! だって、だってゴウはあたしの……!!」



「ゴウがいくらメッセージをしても無視してたのに?」



アマネの言葉にあたしは自分の表情がみるみる歪んでいくのを感じた。



「ゴウはね、本気でアンリのことが好きだったよ? それなのにゴウから離れたのはアンリじゃん。イブキ君の方が価値が高いから、そっちに乗り換えた!」



アマネの声は怒りで震えていた。



友情も愛情もないがしろにしてしまったあたしへ、全身で怒りをぶつけているのがわかった。



「だって、だって価値が高い方がいいじゃん! 友達も彼氏も価値の低い人間となんて一緒にいたくない!!」



アマネの顔から怒りが消えて、泣きそうな顔になった。



「……そうだよね。だからあたしはアンリに捨てられたの」



「そ、それは……」



言い返せなかった。



確かにあたしはアマネを捨てた。



価値が、低いから……。



「だからあたしも、アンリを捨てる。だってアンリの価値はたったの10だもん」



アマネが目に涙を浮かべて言った。



そして、あたしに背を向けて歩き出す。



「待ってアマネ! 謝るから! だから友達に戻って!」



あたしの叫び声に一瞬アマネが立ち止まった。



しかし、すぐにまた歩き出す。



こちらを振り返ることなく、イブキたちの輪に入っていく。



「嘘だ……こんなの嘘だ! あたしの価値が10なんて信じない!」



気がつけばボロボロと涙がこぼれ出していた。



地面にひざを付き、声をあげて泣く。



「嫌だ! あたしの価値は高いはずなのに、なんで、なんで!!」



人の数字だけで判断したあたしが悪いの?



友達を数字で選んだあたしが悪いの?



価値の高い彼氏を作るために、ゴウを捨てたあたしが悪いの……?



「誰か……!」



あたしの周りにはもう誰もいなかったのだった……。





END

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値札人間 西羽咲 花月 @katsuki03

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