第26話
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「アンリ、一緒に飯行こうぜ」
昼休憩中、あたしはぼーっと転校生のイブキを見つめていた。
イブキは相変わらず沢山の生徒たちに囲まれていて、その姿は見えないのだけれど。
イケメン転校生の噂は一瞬で学校中に広まったようで、廊下にも沢山の生徒たちが集まってきていた。
さっきなんて、先生がやってきて教室へ戻るように生徒を誘導していたくらいだ。
ほんの数時間でスターのようになってしまったイブキに関心しきりだった。
「アンリ?」
もう一度声をかけられ、ハッと我に返って視線を向けた。
いつの間にかゴウがあたしの机の前に立っていたのだ。
「なにぼーっとしてんだよ? 大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ご飯だっけ? 行こうか」
あたしはお弁当箱を手に持ち、慌てて立ち上がったのだった。
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正直、ゴウと一緒にいてもあたしの心は上の空だった。
ゴウが熱心にサッカーの話をしていても、全く頭に入ってこない。
適当な相槌を打ち、頭の中ではどうやってイブキと仲良くなろうかと考えていた。
「アンリ、本当にどうしたんだよ?」
「なんでもないよ? ごちそうさま!」
あたしはパンッ! と手を合わせてそう言い、食堂のテーブルから立ち上がったのだった。
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お昼から戻ってきてもイブキの机の周りには人だかりができていた。
これじゃ近づくことができない。
苛立つ気持ちを押し込めてクラスメートたちの様子をうかがうことにした。
「休憩中、ずっとあんな感じだったよ。イブキ君、ご飯食べれたのかなぁ?」
ヤヨイが心配そうな表情を浮かべている。
あれだけ人がいたらご飯も食べれていないかもしれない。
もう少し気を付けてあげればいいのに……。
いくらイケメンでもイブキはアイドルじゃないのだ。
本人もストレスを感じているかもしれないのに、みんなが配慮する気配は見られなかった。
そう考えるといてもたってもいられなかった。
あたしは席を立ち、ひとだかりへ向けて歩きだした。
後ろからヤヨイが声をかけてきたけれど、それも無視して突き進む。
「あの……!」
後ろから声をかけると一斉に振り向かれてたじろいでしまった。
気を取り直し「イブキ君、ちゃんとご飯食べたの?」と、周囲の生徒に質問した。
あちこちから「えぇ? 知らなぁい」という生ぬるい返事があり、ため息を吐きだした。
そんなことだろうと思っていた。
「こんなに集まってちゃイブキ君はご飯も食べられないでしょう?」
反感を買うかもしれないと思いつつ、言わないと気が済まなかった。
「いいじゃん別に。イブキ君嫌な顔してないんだしさ」
「そうだよねぇ? どうしてアンリが仕切るの?」
そう言われたら言葉に詰まってしまう。
あたしはただ、イブキのことが気になっただけだ。
その気持ちはきっとみんなと大差ない。
「ありがとう」
人ごみの中から聞こえてきた声に、あたしは目を見開いた。
「そろそろご飯食べたいなぁって思ってたところなんだよね」
その言葉に押し合っていた生徒たちが少し後退してスペースができた。
そこから顔をのぞかせ、はにかんだ笑顔を見せるイブキ。
その笑顔に心臓がドクンッ! と大きく高鳴るのがわかった。
「ほ、ほらね。みんな一旦席に戻ろうよ」
心臓のドキドキを隠すために一生懸命みんなを誘導する。
ようやく全員が席に戻りホッと息を吐きだした。
「ありがとう、助かったよ」
イブキが笑顔をあたしへ向けて言った。
その笑顔を見ないようにうつむくあたし。
「君名前は?」
「あたしはアンリ。みんなから、アンリって呼ばれてる」
「そっか。アンリありがとう。俺のこともイブキって呼び捨てでいいから」
呼び捨て!?
瞬間、自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。
これほどのイケメンに呼び捨てでいいよなんて言われると、どうしても意識してしまう。
「アンリ、後で番号交換しよう? この学校のこと、沢山教えてよ」
「わ、わかった」
あたしは天にも昇る気分で自分の席へと戻ったのだった。
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少なくてもイブキはあたしに悪い印象は抱いていないようだ。
昼休憩中に勇気を出してみんなに声をかけたのが良かった。
「いいなぁアンリ。イブキ君と会話できて」
ヤヨイは羨ましそうに言う。
「ヤヨイもイブキのこと気になるの?」
「好きとかじゃないけど、あれだけ人気になれば少しは気になるよ?」
勉強だけだと思っていたけれどそうじゃないみたいだ。
「それに、さっきの化学の授業でもスラスラ答えてたでしょう? やっぱり頭いいんだなぁと思って」
確かにイブキは成績もよさそうだった。
今日は転校初日なのに問題を当てられても躊躇することなく解答している。
その姿がまたかっこよくて女子たちからの人気は最高潮に達していた。
休憩時間の度に沢山の女子生徒に囲まれているから、それはそれで大変そうだけど。
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