第10話

さっきゴウの数字は上がった。



それなのに、どうしてイツミの数字は減ったのだろう?



2人の違いはなんだったのか考えてみても、いまいちわからない。



眉を寄せて考え込んでしまいそうになったとき、ゴウが立ちあがってアマネのジュースを拾い上げた。



「大丈夫?」



アマネへ向けてそう声をかけている。



「うん。ありがとう」



アマネは返事をしてから雑巾を取りに行くためにいそいそと立ち上がる。



一連の行動を見守り、ゴウへ視線を向けると額の数字が更に変化していることがわかった。



35019。



さっきの変化で34990になっていたのが、更に上がっているのだ。



「ほんっとアマネってトロイんだから」



ブツブツと文句を言うイツミの数字はほんの少しずつだけど減って行っているのがわかる。



あ……まさか。



あることが閃いてあたしはまたポカンと口を開けてしまいそうになった。



いや、でもそんなことはあるはずがない。



人の言動によってこの数字が増減するなんて、そんなのはただの思い込みだ。



自分にそう言い聞かせてみても、他の生徒たちの数字をしっかりと見てみるとゴウやイツミと同じように少しずつ増減しているのがわかった。



いいこととすれば数字は上がる。



悪いことをすれば数字は減る。



単純に考えるとそういうシステムになっているように感じられた。



やがてアマネが戻ってきて床掃除を始めた。



「あ~あ、あたしってどうして何やってもダメなんだろう」



そう呟くアマネの数字は、昨日よりも少しだけ下がっていたのだった。


☆☆☆


もしもあたしの考えが正しいとすれば、額の数字の正体はその人の寿命なんかじゃない。



その人の価値が数値化されたものである。



そう考えて確認してみると、成績が悪くスポーツのできないアマネの数値はクラス内で一番低い。



そして嫌みの多いイツミもあまり高い数値ではない。



けれど学級委員長をしているヤヨイの数値は他の生徒たちよりも高いことがわかった。



そして、サッカーで期待されているゴウの数値もだ。



生活態度や日頃の行いで数値が決まっているとすれば、この数字が変動することもうなづける。



言動のすべてが数値に反映されているのだ。



教室に戻った後、あたしは試しにゴウの目の前でお弁当箱を落としてみせた。



袋に入っているお弁当箱は音を立てて床に落下する。



「大丈夫か?」



ゴウは当然のようにそれを拾って、あたしの心配をしてくれた。



「ありがとう」と言いながら額の数字を確認してみると、思っていた通りゴウの数字はさっきよりも上がっているのだ。



その代り、お弁当箱を落としたあたしを見て鼻で笑うイツミの数字は減っている。



間違いない!



あたしに見えている数字は、その人間の価値なんだ!



そう理解すると同時に嬉しさがこみ上げてきた。



とにかく、この数字が人の生死に関わるものじゃなかったことに安堵する。



同時にゴウの数字が高いことが誇らしく感じられた。



「たまには食堂で食べるもの良かったね」



アマネに声をかけられてあたしは笑顔で頷いた。



けれど、アマネに数字の低さに一瞬で笑顔がひきつるのを感じた。



アマネは優しくていい子だ。



でも、それだけじゃ数値は上がらない。



ある程度勉強やスポーツができなければならないのだ。



「どうかした?」



アマネが首をかしげて聞いてくる。



「ううん。なんでもないよ」



数値が低かったとしてもアマネはアマネだ。



あたしの大切な友人に変わりはない。



あたしはそう思い直し、ほほ笑んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る