第34話

本当は聞かせる気ではなかったが、今考えが変わった。



あたしはバッチリ録音されているイツミからの罵倒をすべてイブキに聞かせることにしたのだ。



「なんだこれ……」



録音を聞きながらイブキは顔をしかめた。



「イツミはこんなヒドイことをアンリに?」



そして、不安そうな表情をこちらへ向ける。



「うん。でもあたしは大丈夫。このくらいのことで傷ついたりしないから」



あたしはイブキを安心させるために笑顔で言った。



「でも、こんなのひどい……」



「イツミとはできるだけ距離を開けた方がいいよ? なにをするかわからないから」



「そうだな……。それより、俺のせいでこんなこと言われたんだよな? 本当にごめん!」



突然イブキが頭を下げたので慌ててしまった。



「イブキのせいじゃないよ? これはイツミが勝手に思い込んでやったことなの。誰が悪いってわけじゃないから」



「でも……」



「ほら、笑ってよ。せっかくのデートなんだから」



そう言ってしまってからハッと息を飲んでイブキを見つめた。



ついデートという言葉を使ってしまい、心臓がドキドキとはね始める。



今の言葉を聞いてイブキはどんな風に感じただろうか?



「そうだよな。初めてのデートだもんな」



「え……?」



予想外のセリフにあたしは自分の耳を疑った。



初めてのデートということは、これから先もこうして一緒に出かけるという意味でいいんだろうか?



1人で考えをめぐらせていると、イブキがあたしへ微笑みかけた。



「ねぇ、俺と付き合ってよ」



それは突然言葉ですぐには反応できなかった。



『ねぇ、俺と付き合ってよ』



その言葉がイブキの口から出てきたことが信じられなかった。



「あたしが……イブキの彼女になるの?」



質問する声が震えた。



全身が緊張で硬直しているのがわかった。



「ダメかな?」



イブキが小首をかしげて聞いてくる。



「ダメじゃない……ダメなわけがない!」



あたしは叫ぶように返事をしていた。



やった……!



これでそろったんだ。



完璧な友人と、完璧な彼氏。



これであたしの価値は、クラス1だ!!

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