♯26 最後の血柱


 「…何?俺の顔になんかついてる?」


「いや…そういうわけではないが…。」


恐ろしい化け物でも見るかのような顔で、サファイアがコアを見つめる。


「……ごめん、王が変わったことすら知らないとか…?」


コアが遠慮気味に聞く。


「え、王変わったのか?」


「えぇ…」


転生者2人を置いて、2人は互いに困惑している。


「あ俺な、失業したんだよ。」


「は!?」


コアのまさかの発言に、サファイアは動揺を隠せない。


「王がデスガト様からラーディアスに変わってな、そん時に解雇された。」


「え、いつのことだ?」


「3年前。」


サファイアが固まったまま動かなくなった。


「…えー、君。」


「俺ですか?」


動かないサファイアを置いて、コアはカズシに視線を移す。


「そう。名前は?」


「…カズシです。」


カズシはコアの風貌のせいか、中々緊張感が抜けない。


「まあ名前からいって転生者でしょ?」


「は、はい。サファイアが言うにはそうらしいです。」


「え何、らしいって。」


「俺、記憶がないらしいっていうか…」


「…はぁ、ややこしいな。」


コアの眉が垂れる。するとカララギが久しぶりに口を開いた。


「コアペネさん。そろそろ本題に入った方がいいかと。」


「コアペネって言うなカラキョコ。」


「カラキョコの方が意味わかりませんよ。」


2人が言い合っているとサファイアが復活してきて会話に参加した。


「そうだったな。私たちに何の用だ。」


「……説明、めんどいな。」


コアは少し俯くと床に散らばったものを足で蹴散らし、できた空間に座った。



 「俺は少し前、…大体半年ぐらい前にカラキョコ…もとい唐良木今日子を拾ったんだわ。まぁ色々あって今は保護って形なんだけど、一つ問題がある。」


「……それは?」


「八方の血柱、最後の柱だ。」


サファイア、カララギ、カズシはそれぞれ座りやすいところに座る。


「…人柱って知ってる?」


「まぁ、知識程度には。」


コアが目を伏せる。


「…最後の柱、血信の柱…」


コアは薄く目を開くと言った。


「それは我が主、デスガト様だ。」


カズシは理解が追いつかずに呆然とする。サファイアも唖然としたまま口を開かない。


「デスガト様を殺さないと、カズシもカララギも元の世界に帰ることは叶わないわけで。」


「でも、俺にデスガト様を殺すことはできない。もちろんカララギ1人でも無理だ。」


サファイアはコアに目線を向ける。


「…俺にデスガト様は殺せない、とは?」


コアはまた目を伏せる。


「……。」


「…俺は、あの人を殺したくない。」


コアは俯いたまま言う。それを見てサファイアは立ち上がる。


「…呆れた奴だ。5年前戦った時はこんな根性なしではなかったぞ。」


「…承知の上で、言ってる。」


サファイアは腰に手を当て、コアに近づいていく。


「…お前の気持ちは否定しない。だがこれだけでは協力する理由として不十分だ。」


「うん、分かってるよ。」


コアはそう言うと目を開いて説明し始めた。


「…デスガト様がいるのはウノ・ラテレの中心部、デウス城の地下。それまでには当然警備がいるし突破は不可能に近い。」


「でも俺は内部の構造が分かる。その上で最短ルートの警備員は俺が引き受けるから、3人でデスガト様と戦って欲しい。」


「…なるほど。」


サファイアは元いた場所に戻っていく。


「…カズシ、今ので納得したか?」


「ああ、俺は。」


カズシは特に文句はないと言った顔をしている。サファイアの顔もそう険しくはない。


「コア。お前の考え、私達は賛成だ。協力はしてやる。」


「…そう、助かるよ。」


コアの表情がやっと緩んだ。姿勢も元の猫背に戻っている。


「…作戦決行は一週間後にしよう。その日は休みを取る隊員が多かったはず。」


「分かった。それまでは戦闘の準備でもするか。」


「分かりました。」


「おー。」


決意するコアとサファイア。しかし転生者たちは揃ってバカ面をしている。


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