♯19 小さないたずらっ子
「魔法の種類は色々あるが、やはり戦うなら攻撃魔法が必要だな。」
ここには背の低い草が生い茂っており、視界がいい。遠くに見える大きな塔を目印に2人は進む。
「どうやって打つんだ?」
「そう急かすな。実践は獣が出てからだ。それまでは魔法自体の説明をする。」
さっきまでとは風景が変わり、草が薄くなっている。地面にはうっすら整備された石の道が顔を出している。
「人間は一人につき一つ、属性を持っている。私の場合は記憶だな。属性自体は雨・溶岩・絵画・声楽など、数え切れないほどある。」
「…え、それじゃ3つぐらいしか打てなそうじゃね?」
カズシの顔が一瞬曇る。
「安心しろ。例えばクラーズ、この魔法はものを浮かすという単純な効果なんだがな。ほぼ全ての属性を持った魔法なんだ。」
「……ええとつまり?」
サファイアは地面から石を浮かし、遊びながらカズシに話す。
「人間が持つ属性は一つでも、魔法は数百の属性を併せ持つ。効果が酷似した魔法もあるし、大体の場合やりたいことはできる、ってことだな。」
「はえ〜。」
カズシはアホみたいな顔と声で相槌を打つ。
辺りはすっかり遺跡といった様子で、黒ずんだ四角い岩が規則的に並んでいる。さっきの高原より遮蔽物が多いので視界が悪い。
「…ッと。カズシ、登れるか?」
「おう、こんぐらいなら楽勝だな。」
遺跡は崩れている場所が多く、高低差も激しい。登ったり降りたりを繰り返している内に、現在地が分からなくなってくる。
「……カズシ、止まれ。」
倒れた柱を越えたところで、サファイアが声をかけた。辺りはしんと静まりかえっている。
「……魔法の打ち方だが。」
「!」
「血が一瞬利き腕に集まるようなイメージで、瞬間的に力を入れる。」
サファイアは小声でカズシに教える。未だ辺りは静まりかえったまま。
「…あとは気合いで何とかしろ。」
「ちょ、は?待て気合いじゃねぇんだ——」
サファイアの腕から冷気が矢となって飛び出し、カズシの目の前を掠める。
「ギ、ギィィ…」
氷の矢の着弾点に視線を移すカズシ。そこには獣とも言えない二本足の生物が立っていた。一歩前には矢が刺さっている。
「な、なんだこいつは…」
「キリギキ、小型の魔人だ。こいつらは群れる性質がある、油断するな。」
そう言うとサファイアは腕を光らせ、周囲を警戒する様子を見せた。差し詰め戦闘体制といったところか。
「ギィィーッ!!」
前方の壁から空気を絞ったような鳴き声が上がる。そして次の瞬間前から、右から、左から、そして後ろからキリギキが飛び出してくる。
「うおっ来んな!」
「シャアア!」
飛びかかるキリギキ。カズシは驚くが後退しながらも後ろ蹴りを浴びせる。カズシよりもひとまわり小さな体躯が宙に浮く。
「っか軽っ!!めっちゃ軽いなコイツ!」
「落ち着け。冷静であれば風邪ひいてても勝てるぞ。」
言葉の意味を知ってか知らずか、さっきよりも興奮した様子でキリギキは飛びかかってくる。
「しつこい。」
サファイアが言葉を発した瞬間、後ろから迫るキリギキが氷漬けになった。周りのキリギキは怯えて近づいてこない。
「……おーい、早く逃げないと殺すぞ。」
言葉は伝わっていないはずだが、小さな魔人たちは背中を向けて走り出す。
「…魔法は殺さないといけない相手で実践する。使い慣れていないと加減ができないからな。」
小人たちの背中が小さくなっていく。カズシはアホみたいな顔で、その背中を眺めていた。
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