♯20 斜陽に鎌を
キリギキが去ってからしばらく経ち、太陽は傾きかけていた。現在地は遺跡を抜け高原を抜け、また遺跡に入ったところ。
「…まずいな、このままでは魔法の練習をする前に日が暮れる。」
「そもそも殺さないといけないような奴なんてポンポン出てこられても困るんだよなぁ。」
「確かに、一理あるな。」
カズシは少しつまらなそうにはするが、別に慌てるわけでもない。そもそも魔法の練習相手イコール命の危機なのだから当然と言えば当然だ。
キリギキが出現した遺跡と違いここは人が住んでいたようだ。迷路のように入り組んではいるがあちこちに石造りの家がある。と言っても崩壊しているが。
「……家に帰るより、近くの村の方が近い。今日はそっちを目指すぞ。」
サファイアはカズシを振り返って言う。カズシはアスレチックのように崩壊した屋根を跳んで進む。その様子を見てサファイアはまた先に進む。あたりは少し朱色がつき始めており、日暮れまで時間はない。
遺跡を進み、もう少しで抜けるという時。もう辺りは茜色に染まっている。
「……ん?何の匂いこれ。」
「カズシも気づいたか?なんか変な匂いがするんだ。」
この遺跡が街だったとするならここは外への道。すでに遺跡は終わりかけ視界は開けているが、匂いの正体が掴めない。
「カズシ、少し警戒しながら——」
サファイアが朽ちた柱に差し掛った瞬間。柱から黒い影が腕を振るった。
「ッ!?」
後方へ跳び距離を取る。黒い影はもう見えていない。生ゴミを散らしたような匂いだけが存在を示す。
「……ん?」
軋む音、あたりが揺れる。いや、柱が揺れている。
「カズシ!」
柱が音を立てて崩壊しカズシに倒れかかる。後退してカズシはかわすが。
「…い、いない?」
「サファイア!後ろだ!!」
金属音と空を裂く音。その二つが重なり、警鐘となった不協和音が女の体を捉えた。
バキッ
硬いものを割るような、鈍い不快音が響く。
「…グッ…くっ…そ…」
化け物の鋭利な前足がサファイアの腹を貫いていた。普段変わらないサファイアの顔は苦痛に歪んでいる。
「サファイア!!」
カズシが走り始めた瞬間、化け物の前足が高い破裂音とともに四散した。前足が地面に飛び散る。サファイアの氷魔法だ。化け物もたまらず後退する。
「ッ…クソッ。」
「おい、大丈夫か!?」
サファイアに駆け寄るカズシ。化け物はまだ襲ってくる様子はない。
「カズシ、意識がもたないから駆け足で説明するぞ。」
「ちょ、体は」
「ここは村が近い。こんなモンスターを放置することはできない。私は回復魔法で治るが失血で意識が保てない。」
サファイアも焦っているのか説明がいつもより拙い。顔色は秒増しに悪くなっていく。
「…私は今のうちに隠れる。そして、」
「奴はお前が倒せ。分かったか?」
「…は?」
言った瞬間、サファイアの腕が光り姿を消す。
「…は?ちょまて」
「シイイアアァゥ!!」
悩む時間もなく化け物が襲いかかってきた。前足の鎌のような部位が空を切って不快音が鳴る。
「クッソなんだお前!」
「シイイイイ!」
紙と紙が擦れ合うような奇声。化け物の前足が振り下ろされる。カズシは走り回るが化け物の方が足が速い。
「あよいしょ!」
「シイイイッ!?」
カズシが急激にUターンした。化け物の巨大は曲がり切れずに正面の壁に衝突する。
(速いけど小回りが効いてねぇ…遺跡に戻ったほうがいいか?)
「…キキキキ」
「ん?」
化け物が笑うような声を上げる。それとともに腕が光りだした。
「…おい、マジか?」
化け物の腕の光。それはサファイアの腕の光と同じ、魔法の光だった。
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