♯21 既視の炎罰


 「うおおおおおおおお!!!!」

「シャアァァァアアアッ!!」


逃げる弱者、カズシ。狩人は腕に魔光を携え、どこまでも追跡する。


(奴の魔法が分からないうちは逃げるしかねぇ!クソッ人間以外も魔法使えんのかよ!?)


両者は遺跡の中心部、一番入り組んだ地形に近づいていく。カズシは走力の差をカバーするために蛇行し続けるが、化け物も対応しつつある。


 キイィン…


(きた、この音だ!)


不協和音の警鐘。化け物の前足が動くとこの不快音が響く。


「シイイッ!!」


「のわぁっ!」


化け物が体をうねり鎌のような前足を振るった。身を翻したカズシの頭髪が少し刈られる。文字通り間一髪だ。


化け物は全身を使って前足を振ったため一瞬隙が生じた。カズシはその隙に狭い路地に駆け込む。細い体ではあるが全長は人の5倍ほどもあるのだ、同じスピードは維持できないだろう。


最初の遺跡と違いここは道が整備されている。所々雑草が生えてはいるが、こちらの方が早ければ先回りされるようなこともないはずだ。


(……どうだ?)


恐る恐る振り返ると化け物は目測で20メートルほど離れたところを走っていた。


キイィン…


(フン、この距離じゃ当たんねぇ——


キイイイイッ!


カズシの左肩を黒い刃が掠めた。通り過ぎる不協和音が耳を突く。


(…なっ!?)


「シイイイイッ!!」


キィイン…キイィン……キイイイン…


(ま、まさか…)


振り返ったカズシの視界が無作為に黒を塗り散らされる。化け物の腕は暗く光っており、刃は避け切れる速度ではない。


「がっ…!」


「シイィ…」


黒い刃は吸い寄せられるようにカズシに直撃した。欠損は免れたが右脚、右腕、左肩、あちこちから出血しておりとても走れる状態ではない。


「うぅ、クッ…クッソ…」


(い、痛え…痛みで足が動かせねぇ…!ヤバいヤツはすぐに来る!このままだと…)


化け物の魔法。命を奪うためだけの刃。体制を立て直した化け物はゆっくりと歩いてくる。


鼓動が高鳴る。全身から汗が吹き出す。化け物が近づいてくる足音、自分の呼吸音、今は全てが不快音となって襲ってくる。


(…足が動かない。死ぬ。こんなところで?)


足音はもうすぐそこだ。視界は化け物の巨躯に覆われて暗い影を落とす。


(死ぬ…死んだらどうなる?)


跪いているカズシ。化け物は静かに見下ろす。


キイィン……


(また…負けるのか…?)


『君も一緒に——』


凶刃が首を刎ねる刹那。


『竜を灼き落としたのは——』


誰の声か。その言葉は誰へのものか。


『次は、負けないから』


蘇る、いつかの言葉。




「シアアアッ!!」


振り抜かれた鎌。しかし、その刃は何も捉えていない。


「…チッ、やっぱ痛えな…」


土埃の向こうに、カズシは立っていた。その顔は苦痛も恐怖も写してはいない。


「よくも刻みやがったなクソ野郎!ぶっ殺してやんよぉ!!」


「シイイイイ!!」


互いに雄叫びをあげ、対峙する。化け物の腕は怪しく光り大きく振りかぶる。


(…落ち着け…利き腕に一瞬、血が集まる感じ…)


振りかぶるカズシ。その腕は薄く光り出していた。


「うおぉらあああ!!」


「シイイアア!!」


轟く雄叫び。化け物の黒い刃がカズシに迫る。不協和音とともに進んでいく。


「シイ……!?」


大地を揺るがす轟音。空をも赤く灼き焦がす鮮烈な豪炎。凶刃を飲み込み地形を焦がし、その業火は化け物へ到達する。


「ギアア……」


断末魔すら燃え上がり、化け物の体が崩れていく。後には灰すら残らない。







(……?ここは…)


『よーく頑張ったっす!お疲れ様!』


『結構ヒヤヒヤしたが、結果オーライ万々歳!ゆっくり休めよ!』


『そうだ!よくやった!カズシ君!……俺がカズシ君って言うとややこしいな。』


(……誰だ……あんた達は…)










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