♯25 貫け…る?
カララギの来訪から程なくして2人は店を出た。村はやはり木を利用した建造物が多く、落ち着いた雰囲気だ。木の隙間から刺す木漏れ日が、穏やかな日常を見守っている。
しばらく歩くと宿屋が見えてきた。一際大きな大木でできており、宿屋というよりは旅館といった印象を受ける。
「いらっしゃいませ〜。」
入るとすぐに女将が迎えに出てくる。一通り事情を説明するとカララギがいる部屋まで女将が案内した。
「では、ごゆっくり。」
女将は整った会釈をして廊下を戻っていく。
「…いるか?私だ。」
サファイアがノックをするとすぐに返事が来た。
「お待ちしていました、どうぞ〜。」
ドアを開けるとカララギが2人の席を用意して待っていた。口調などからも彼女の礼儀正しい性格が伺える。
「コアっていう奴に、会えるんだな?」
カズシが堅い面持ちで聞く。
「…ふふ。安心してください、騙そうなどとは思っていませんよ。まぁ私も何をするのかは聞いていないですし。」
カララギは少し微笑んでそう言った。
「では、サファイアさん。早速転送魔法を。」
「…分かった。」
「位置情報は私が調整しますので、サファイアさんは渦の生成をお願いします。」
カララギの言葉に頷くサファイア。サファイアの腕が光り、青と緑の光が顔を出す。
(これがサファイアが言ってた転送魔法か…)
『よし、いいな?』
『駄目ですけど?』
カズシの耳に聞き慣れない声が響く。
「…?」
光の渦が3人を覆い、やがて視界は白に包まれる。
『懐かしいっすね。あの渦。』
『そうだな。サッちゃんもう克服したかな?』
『俺はまだだと思うな。』
『いや5年もあれば克服したんじゃないっすか?』
『まぁ、すぐに分かるさ。』
『…そうだな。』
「……誰だ?」
視界が改善し振り向くカズシ。しかし…
「あの…サファイアさん、大丈夫ですか?」
「う…昔からこうなんだ。あまり気にすることでは…」
「あら、サファイア?」
周囲を見回すと薄暗い散らかった部屋にいた。転送先を間違えたのかは定かではないが、サファイアの顔が青ざめている。
「おい、大丈夫か?」
「心配するな…これでも少しは慣れたんだ。」
大丈夫ではなさそうだが、サファイアは立ち上がると言った。
「ところで…こんな所にコアはいるのか?」
「ちょっと待ってくださいね…」
カララギはそう言うと散らかった床を地雷を避けるように進んで行き、恐らくソファであろう物の前で止まった。ソファはこちらに背を向けているので何があるかは見えない。
「コアペネー、連れて来ましたよ。」
「…え…もう…?」
どこからか知らない低めの声がする。
「もうって、あなたが言ったんでしょう?」
「待て、コアペネって言った?せめてさん付けしろよ。年上だぞ。」
「さんをつけるに値しないんですよ。」
「え?」
「とりあえず、立ってください。2人を待たせてるんですよ。」
「…ああ。」
ソファから人影が現れた。薄暗いのでよく分からないが、みすぼらしい服にだらしなく伸びた髪、猫背で目の下をポリポリ掻きながらこちらに歩いてくる。
「…よく来たな。…電気ぐらいつけてもいいよ。」
「…誰だ?」
警戒するサファイアを尻目に、カズシは言われた通り電気をつける。
パチッ
「え…」
「…お、おぉ…」
そこにいたのは沈んだように紅い髪、覇気のない垂れた目つき、王国の兵を束ねるものとは思えない弱々しい男だった。
「ども…お前は久しぶりか。俺はコア・ペネタラーレ。今日は話があってお前らを呼んだ。」
「お前が…コア…?」
まさに信じられないといった表情のサファイア。しかしその人物は間違いなく、紅い眼差しを持っている。
「…えぇ?」
一方、カズシはバカ面で立ち尽くすのみだった。
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