♯28 伏し進む異形
「いぃらっしゃアいィ…」
「ひっ…」
見たものの不安感を煽るような、不自然な佇まい。5頭身ほどで大きさは人間大、全身に光沢のある液体を浴びており、左半身の一部が不自然に肥大化している。
「あぁ…ア…」
ベチャアッ
「な…何だ…?」
怪人が膝をついて倒れた。生臭い液体が飛び散り、肥大化した腕から軋むような音がする。
(こいつ…歩けないのか?…なら、さっきの女を追いかけた方が…)
「ナニにぃ…されますかァ…」
「……あ…」
怪人はなおも蠢くが、ミミズほどの速度でしか進まない。
「ご…注文…」
「…あ、あんた…」
カズシの顔がひきつる。
ガタッ
怪人は攻撃などしていない。しかし、カズシは目の前の恐怖に立ち続けることができず、膝が落ちる。
「…アぁ…ぃ…」
「嘘…だ…」
『ご注文は、如何されますか?』
『…レアファング肉の——』
『カールフィッシュの——』
「…うゥ…」
怪人の動きが弱まっていく。カズシはただ、その様子を見て固まるだけ。
「…ァ…」
「…ち、違う。間違いだ。そうだ、そうに決まってる。」
震えながら、呟く。
「…追わなきゃ…。あいつは、何をした?」
「……」
立ち上がるカズシ。怪人はもう動かない。
外へ向けて、走り出す。
ギイィ…
ドアを開け、スラムに出ようとした瞬間。
「ギアええエエ!!」
「!?」
死角からの叫び声。カズシは驚いてのけぞり、結果的に攻撃をかわす。
「クソッ…!」
屋内に現れたのと同じ、といっても特徴は異なるが人の形をした異形の生き物。どうやらこの個体もスピードは出ないようで走れば追いつかれることはない。
「…どう、なってるんだ…?」
朝、サファイア達が出た時はこのような景色ではなかった。来たばかりでよく見て回ったわけでもないが、住宅が密集する、砂地色の強いスラムだったはず。
「……なんだ…なんなんだ…!?」
走り続けるカズシ。周囲には生臭い液体が飛び散り、怪人たちがそこらじゅうを闊歩している。地獄とも言い難い、生々しい不安を煽る光景。
「うわああ!!」
「キャアアーっ!」
「何だ!何なんだコイツらは!!」
「うぉおらああ!!」
「どうなってるんだ!!」
絶え間なく悲鳴と怒号が上がり、どこで誰が叫んでいるのかも分からない。走っても走っても景色は変わらずカズシも混乱が抑えきれない。
「…何だ…奴はどこに…」
そういった時、カズシの視界が不審な人影を見つけた。右に曲がった通路の先、黒ずくめの人影。その通路だけは怪人がおらず、しんと静まりかえっている。
「…行くしかないか…!」
道を曲がって通路に入る。進むと砂地色の風景に、無機質な灰色が混ざる。
右に曲がり、左に曲がり、走り続けるカズシ。やがて砂地色は消えてなくなり、あたりは壊れた鉄塊、舗装の剥がれた灰の道が姿を表す。
「……!?」
そして
「…行き、止まり…?」
道が絶え、円状の空き地にたどり着いた。スラムから少し離れたせいか、騒ぎも鳥のさえずり程度にしか聞こえない。
「ハァ……ハァ…」
カズシは呼吸を整えつつ、辺りを見回す。
「…フゥ………フゥ…」
街の喧騒と呼吸音だけが聞こえる。
「………」
「………」
「……」
このまま何も起きないのか。
「……」
そう思えるほど、時間が過ぎた頃。
ザッ…
一つ、黒い影が落ちた。
「……5日もすれば…また会える。そう、お伝えしたはずですが。」
「…ハッ。待てるわけあるか。」
対峙する両者。
風が、優しく頬を撫でる
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