♯27 来客


 ジャーーー   キュッ


    カチ…カチン…カチャ…


 カチ…カチャ……カチン…


「…ん〜フンフンフ〜ン♪」


カチ… ガチャン!


「おわっ…っぶね、割れてねぇ。」


カチャ……カチ…キュッ


  ジャーーージャァー


「フ〜ンフンフ〜ン♪」


ジャーーー  キュッ


「ふぅ〜終わった。何か久しぶりだなぁ、1人だけ残って雑用って。」


洗い物を終え、独り言を口にするカズシ。台所のタオルで手を拭き、整理された部屋に戻っていく。


「……俺もやりてぇなー、魔法の練習。」






 「カズシ、お前は残れ。」


「エ?」


キズクの村(転送前の村)に別れの挨拶をし、魔法の練習に入る時のこと。


「お前の魔力はまだ安定していない。ちょっと打ったらあたり一面黒焦げ、その上に一か月眠る。…すまないが大人しくしててくれ。」


「え、でも俺戦えねーじゃん。」


拠点をコア達の住むコルト町スラムに移し、カズシ的にもこれからと言うタイミングだった。


「お前は緊急時のぶっぱに取っておくことにする。……とりあえずこの部屋を掃除しておいてくれ。」


「おい、それちょっと前と変わんねーじゃねぇか。」


「お前は器用だからな。頼んだ。」


「いってきまーす。」


「頑張れ、カズシ君。」


カララギがドアに手をかける。


「お、おい待て!」


「じゃあな。」


3人はカズシを家に置き、魔法の練習に行ってしまった。




 「はぁ〜。確かにデウス城近いけどさ…つか見えるし…でも俺キズクの村でゴロゴロしてたかったな……。」


そう言いながら、自分が掃除した部屋でゴロゴロするカズシ。


「……昼、何あるかな。」


起き上がって食料の貯蔵庫に歩いていく。時間帯的も真昼といった具合で、そろそろ昼食の準備をする頃だ。


  ギィ……ガチャ


「ん?」


貯蔵庫を開ける瞬間、家のドアが開く音がした。


(…忘れ物か?)


家にはカズシ1人だけ、他3人は出払っている。


「…失礼します。」


「…!」


空気が重く、暗くなる。泥を被ったような不快感が肌を震わす。声を聞いただけ、それでも確かに全身を零度が貫いた。


「……へ、部屋間違えましたか?」


恐る恐る声を上げるカズシ。貯蔵庫のある部屋は入り口からは見えない。間違いなら、これで帰るはずだ。


「……お久しぶり、ですかね。」


最初は威圧感で気づかなかったが、女の声だ。声自体は高く細い。それでも何か鬼気迫るものを感じる。


「た、多分!人違いだと思います!」


「まぁ、確かに初対面ですので。」


女の声はリビングで止まった。


「……5年ぶりでしたか。」


「な、何の話ですか…!?」


沈む重圧に、カズシは思わず声を張る。


「今日は結果が聞けると思ったので、参りました。」


「だから!何の——


「魔力と魂の、転移実験。…ベノムキマイラの魔力は馴染んでいますか?魂はそのままにしてあるので、意識はあると踏んでいるのですが。」


女は淡々とした口調で話し続ける。やけに起伏のない、違和感のある喋り口調。


「…本当に、何の…」


「では、一つ確認しましょうか。」


「菅原一心。この名前は、誰のものですか?」


「……え?」


予想だにしない名前が、女の口から出てきた。


「確か…サファイアの…」


心臓が跳ねる。何か聞いてはいけないものを聞いたような、悪寒がカズシを襲う。


「……どうやら、仮説は成り立たなかったようですね。」


女の声は未だ感情を表さない。


(菅原一心…ベノムキマイラ…サファイアが話していたことだ)


「…お、おい!お前は誰だ…!サファイアに何かしたのか!?」


怒りと疑念を含んだ叫び。沈黙すら苛立ちに変わるような、よどんだ感情が湧き上がる。


「……あぁ、あの青髪のお嬢さんのことですか。別に何もしていませんよ、あくまで貴方達3人の実験ですから。」


「…それと一つ目の質問ですが。……そうですね…あと5日もすればまた会えますから、その時にお答えします。それでは、私は失礼します。」


「おい!待て——」


貯蔵庫から飛び出したカズシが、目にしたもの。


「……お一人で随分暇でしょうから、こちらでお遊びになっては?」


それは部屋に佇む、異形の怪人だった。



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