♯15 ここは


 「入れ。」


「…は、はい……お邪魔します。」


女の一言でカズシが家に入る。室内は全体的に木製のものが多く、窓から陽光が差している。


「自己紹介がまだだったな。私はサファイア。今日の苗字はエテンラク。よろしく。」


「…えー、よろしくお願いします。」


サファイアの奇妙な自己紹介に多少たじろぐが、カズシは緊張した様子で返答する。


「その…ありがとうございます。記憶のない俺を引き取ってくださって。」


そう言ってカズシは頭を下げる。サファイアは椅子にかけているが、カズシは座ろうともしない。


「……そういうのはやめろ。敬語も鬱陶しいし名前も呼び捨てにしてくれて構わない。」


「分かり、……分かった。」


慣れない様子で話すカズシ。その表情はサファイアに対する感謝より、疑念を浮かばせている。


 

 病院でカズシが名乗ったあと、急にサファイアが「自分が保護する」と言い出したのだ。もちろん医師も困惑していたし、態度の変わりようを疑ってもいた。


 次の日にカズシを引き取ると、雪の中を強引に進みここまで来たのだ。なぜと聞いても理由を言いはせず、ただここに連れてきただけ。カズシからすれば素直に感謝出来る状況ではない。


 「なんで、俺を引き取ったくれたんで…くれたんだ?」


カズシが疑問をそのまま口にする。ここまでの道中、サファイアは口を開こうとすらしなかった。やっと会話してくれたので、カズシははやる思いを抑えられないでいた。


「安心しろ。全部説明してやる。だから大人しく私に従え、いいな?」


サファイアが落ち着いた口調で言い放つ。そして、カズシが動揺してる間にも説明を始めた。


「お前は転生者で元の世界に帰らなければいけないだが転生者が帰るには相応の危険を冒さなければならないだから私が全ての工程を一人でやるその間ここで外に出ずに大人しくしていろ、分かったな。」


「……え…?」


何かの呪文か何なのか。サファイアはかなりの早口で捲し立てていたが、何を言っていたのかよく分からない。


「つまり、何もせずにここで大人しくしていろ。ということだ。」


「ちょ…え?いや何にも分かんねぇ…」


再び疑念が溢れる。カズシにしてみればいきなり連れ込まれた家に「私の仕事が終わるまで引きこもっていろ」と言われたのだ。サファイアが何者なのかすら分からない。これでは監獄同然だ。


「転生者って何なんだよ、…俺のことを知ってるなら教えてくれよ!」


「うるさい、叫ぶな。お前のことなど知らない。少なくとも見たことはない。」


疑念が溢れ、カズシは思わず叫ぶ。しかしサファイアは表情一つ変えはしない。


「暗い朱色の髪の毛、同じ色の目、年齢は見た目的には私と同じぐらいか。……年齢、そうだな。」


サファイアはカズシに向き直るとこう言った。


「……一心。私はもう21だ。」


「…は?」


そう言った顔はさっきと変わらず、表情も変わっていない。しかし、カズシは自分に言われた気がしなかった。


「私は出かける、ここから出るなよ。」


「お、おい待て!」


サファイアは振り向くことなく、家を出る。ドアが閉められ、カズシが追おうとしたがドアが開くことはなかった。



 「何なんだ……ここは何だ、俺は何なんだよ!」 


サファイアの言動、閉じ込められ何もできない状況。カズシは苛立ちに任せて叫び散らす。窓もドアも、何度やっても開く気配がない。


「クソ……本当に何なんだ…」


動く気力も失い、カズシは部屋に角に座り込む。何となく部屋を見回すが、これといって気になるものもない。


 しばらくすると、陽光が反射しているのを見つけた。することもないので、見に行ってみる。反射を目印に奥の部屋に進むと。


「……なんだ、これ。」


そこにはサファイアが装備できそうもない、男物の鎧が二組。部屋の棚の隣、無造作に置いてあった。







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