♯16 幽閉生活の中で
カズシがサファイアに連れられて3日経った。あれからカズシが外に出ることは叶っていない。この3日間、サファイアは毎日のように出かけては何だか疲れた様子で帰ってきていた。カズシは監禁同然の状況ではあるが、毎日この様子では心配にもなる。
「なぁ、サファイア。お前いつも何しに行ってんだ?」
「お前は気にしなくていい。……なんか味薄くないか?」
サファイアが帰ってきた夕食のこと。カズシはサファイアに聞いてみるが、まともに答えようとはしない。室内には食器の擦れ合うカチャカチャというような音が響く。
「料理はまだ慣れてないんだよ、文句言うな。
……何してるかぐらい教えてくれてもいいだろ。」
「文句なら言い続けるぞ、じゃないと上手くならないからな。……まぁ、何してるんだろうな。」
「はぁ?なんだそれ。」
サファイアはカズシと目線を合わせようとしない。というより、どこか遠くを見ているようだった。
カズシがサファイアに連れられて、二週間経った。未だにカズシが外に出ることは叶っていない。相変わらず何をしているのか、少し汚れて帰ってくるサファイア。しかし、カズシはこの生活に慣れつつあった。
「今日は何してたんだ?」
「息。」
「…まぁ、嘘じゃないな。」
このやりとりも段々お決まりというか、日課のようになっていた。
「サファイア、明日俺掃除するから。なんか都合悪いものは先に片付けといてくれ。」
「分かった、助かるよ。」
カズシは記憶がない。サファイアがいない間は料理などの家事ぐらいしかすることがないのだ。
「……多分1つ部屋が余ってるから、そこを掃除して使うといい。」
「…?ありがとう。」
カズシはここリビング、キッチンぐらいしかいるところがない。家自体は2階への階段もあるし部屋もそこそこあるのだが、なんとなく他の部屋には入らないでいた。
カズシが他の部屋を見て絶句するのは、この次の日のことである。
カズシがサファイアに連れられて、1ヶ月経った時のことだった。その日は少し風が強いだけの、普通の日だった。
ギイィィ……
「……帰った、ぞ。」
「…ぉ、おいそれどうしたんだ?!」
ドアが開くとサファイアがいた。しかしいつもより汚れており、その腹部付近には赤黒い何かがついていた。
「…安心しろ、私の血だ。もう回復魔法もかけたし、本当に大丈夫だ。」
「安心って、…お前意味わかってんのか?!と、とりあえず入れ!」
サファイアは口ではそういうが、声は掠れ、まともに歩けていない。カズシに肩を借りてようやく部屋に入っていく。
「……私の、心配はいら、ないから…」
「お前本当に大丈夫か?とりあえず休め。」
カズシがサファイアを木のベッドに寝かせると、そのまま気絶するようにサファイアは眠った。その寝顔から苦痛の色が消えることはなかった。
「…これなら食えるか?」
「そんなに気を遣わなくていい。傷は完全に癒えている。」
「そうか、…ならもっと食え。」
「味が薄い。」
「文句言うな。」
朝になるとサファイアは既に回復していた。カズシは気を遣って食べやすいものを用意したが、「味が薄い」の一言。どうやら本当に大丈夫なようだ。しかし
「……昨日、何があった?教えてくれ。」
「息。」
「違うだろ。息してて血が出るって言うのか。」
サファイアは依然として答える様子がない。あのような状態になっても、それでも答えようとしないのだ。
「……俺のために、何かしてくれてるんだろ?ほぼ監禁状態だけど、これでも感謝してるんだ。何してるかぐらい教えてくれ。」
「……。」
サファイアは押し黙ったまま、食器に手を伸ばし続ける。
「サファイア!」
「……うるさい、食事中に叫ぶ奴があるか。」
カズシの言葉に少し表情が変わったサファイア。しばらく黙っていたが、サファイアはスープを飲み干すと話を始めた。
「5年前の話になる。もう、終わったことだ。」
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