♯4 飛襲


 それは、魔法の練習を開始してから一時間ほどのことだった。この世界の昼夜の間隔はまだ正確には分からないが、あたりは暗くなりかけていた。


   ヒュゥーー

 ヒュゥウーーーー

       ヒュゥーーー


「魔法、出ないっすね〜。」


錦がそう言った。そう言いつつも顔が笑っている。


「何でお前だけできるんだ……?」


武田は納得いかないらしい。練習を始めたものの、錦以外は魔法に成功していなかった。


     ヒュゥーーー

  ヒュゥウウウウウーー

        ヒュゥウウーーー

「風、強いですね。」


一心がそう言った時だった。


ヒュゥウウウウウ……

   ヒュウアアア!!!


風とは言い難い、不気味な金切り声が頭上を通り抜けた。


「なんだ?!」


驚いた一心があたりを見回す。


「伏せろ!!!」


武田が叫んだ瞬間。金切り声が巨大な竜として姿を現した。驚く暇もなく巨体がうねり、巨翼が3人の足場を薙ぎ払う。地面が瓦解し空中へ投げ出される3人。幸い地上に落ちることはなく、似たような硬い床に叩きつけられた。


「いでっ!」


そこまでの高さはなかったが、床の硬度が高く相応の痛みが走る。


「ヒュアアアアッ!!」


再度竜が姿を現す。顎を裂けんばかりに開き、こちらに照準を合わせてくる。


「はっ、走れぇー!」


転げながら武田が叫ぶ。ここは先程の場所と違って縦方向にかなりの奥行きがある。つまり、避ける余地があるのだ。


「ガアアアアッ!!」


大きく開かれた竜の口から、燃え盛る炎が放射された。


「ぬぅおおお!」


「あああああああ!!」 


「んーー!」


思い思いの叫び声を上げ逃げ惑う3人。鉄を砕き、溶かしながら竜は追ってくる。ほぼ同速で進み続ける両者。


「2人いい!!」


「「何じゃあああ!!」」


命をかけ、龍に追われながら悲鳴にも似た声で3人は叫ぶ。


「このままだと!ジリ貧!!OK?!」

「「OK!!」」


なにもOKではないが、佐藤は続ける。


「だからッ!やるしかないいっすぅ!!


「……オウッ!」


「マジで?!」


命をかけて、やるしかない。こんなことをしている間にも足場、体力ともに削られていく。


「打つっすよ!魔法!!」


「ああああ!もうどんとこいや!!」


「ええええ?!」


怯える学生を尻目に社会人2人が覚悟を決めた時。


「ギアアアアッ!!」


「ッ?!」


竜が突然スピードを上げ飛び込んできた。直撃はしなかったが、一心と武田が巻き込まれる。


「クソッ!こいつ!」


一心はすぐに立ち上がる。が、


「無事っすか?!」


「…いっ生きてはいるぞ!」


武田が立ち上がらない。竜の翼がかすり、大きく吹っ飛ばされたからだ。翼を叩きつけ地形を破壊しながら竜はまた飛び上がる。


「てんめーッ!」


「うおおっ?!」


「なぁっ!」


3人はまたしても空中に投げ出された。崩れる地形の土埃が視界を遮る。やはりそれほどの高さはなく、武田を除いた2人はすぐさま立ち上がった。


「武田さん大丈夫っすか?!」


「……おう!なんとかな!」


土埃で場所は分からないが無事らしい。


「……!佐藤さん!今!チャンス!!」


語彙は崩壊しているが、一心の考えは佐藤に伝わった。


「今ならあいつも見えないはずっすね……一心君!見つけたら場所教えて!!」


「分かりました!」


そう言った瞬間、一心を巨大な影が覆った。風圧で土埃は消え失せ、それが姿を表す。


「ヒュアアアア!!」


「うああ゛ッ!嫌だああああ!!」


姿を現した竜は一心へ刃物のような爪を伸ばす。


「なっ!!間に合わ…!」


「ヒュウウアアア!!」


竜の咆哮が轟く。


「うわあああああああああ!!!!」


もう一つ轟いたのは、断末魔だった。


 辺りを震わす金切り声。


 巨翼が、豪炎に灼け落ちる。











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