♯3 TPOは守りましょう

 

 (終わった。はい詰んだ〜ツンデツンデ〜

ww。)


……そう、今度こそ終わった。一心は自分の置かれた状況を、「詰み」であると判断したの

だ。ここは目測でも地上100mある高所。下りる方法もなく、ここで暮らせる食料もない。凄く分かりやすく詰んでいる。


「……お二人、名前は何でいうんですか?」


聞いてどうにかなるわけでもないが、最期を共に過ごす仲間だ。名前ぐらい知っておきたかった。


「そうだな、私は武田信輔だ。会社では、こいつの上司という立場だった。…短い間だが、よろしく頼む。」


中年の方が答える。


「俺は佐藤錦っていうっす。部下でーす。」


若い方も答える。相変わらず、何故か慌てる様子がない。彼は何を考えているのだろう? 


「あの、錦さん。なんで落ち着いてるんですか?」


一心は言ってから気付いたが、これはさっき武田が聞いたことだった。


「さっきも言ったっすけど、慌ててどうなるんです?下りれる訳でもないのに。……あとタメ語でいいっすよ〜。」


やはり、似たような答えが返ってくる。


(……それにしてもやっぱり落ち着きすぎだよな…普通この状況でタメ語OKとか言うか?)


 そんなことを考えていると、錦がおもむろに

立ち上がり、こんなことを言った。


「ちょっと見てて下さいっす。」


なんか〜っすの使い方が変な気がするが、一心は突っ込まないでおいた。


「ぬぅうー↑うっ↑うっ↑なぁああ↓ぁああ↑」


(えええええええ何この人?!)


空気を震わせ奇声を上げる錦、ビビる武田と菅原。


「あ、お、お、おぉー!!」


(怖い怖い、マジで怖い。)


「おっおい?!佐藤?!」


2人は奇声を上げる錦に釘付けだった。錦の後ろのことなど、気にも留めていなかった。


「な゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


ドオオオオオオオオッ!!!


唸る轟音。鮮烈な稲光。発狂する錦。脳の処理が追いつかず、固まる2人。そしてやっぱり発狂する錦。


「ドッキリ!!大成功!!!!」 


……発狂?する錦。


「……??」


「……????」


やはり、脳の処理が追いつかない。一心が目にしたのは呆然としたまま、とりあえず錦を殴る武田の背中だった。


 錦の説明はこのようなものだった。2人より2日ほど早く目覚め、しばらくしてここが異世界であることに気づいた。食料がなく、水もなく、干からびそうになった時、思いついた。ここが異世界なら、魔法が使えるはずだと。実験の結果、魔法を使うことに成功し、水の確保ができた。食料の問題は解決していないが、水を飲むことができる為、しばらく生きることができるらしい。


「……なるほど。で、このドッキリとか言うのは?」


「ただの悪ふざけっすね。」


身もふたもないとはこのことだ。正座させられた錦は、いまだに悪びれる様子もなく真顔である。


「つまり3人のうち誰かが、ワープとかできるようになれば、希望はあるって訳ですね?」


何はともあれ、生き残る選択肢が出てきたのだ。コントをやっている暇はない。すぐにでも魔法の練習を開始した方がいい。


「そいじゃ、頑張ってワープの魔法を習得するっすよ!!」


「あ、おー。」


「おー。」


若干拍子抜けしながら、魔法の練習は始まった。魔法の効果、リスク。彼らはまだ、何も理解していない。






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