♯2 モブと社畜と異世界召喚-2

 ヒュゥーーー    

      ヒュゥーーーーー 

ヒュゥウーーーーーーー

             ヒュゥーーーー

 「……ん…?」


ヒュゥーーー 

  ヒュゥーー


 ヒュゥウーーーーー


(なんの音だ…?)


「ん……」


「オ?」


 一心が認識できたこと、それは自分が目覚めたと言うことだけだった。


「…え…どこだここ…?」


一心の表情が固まる。


(…俺は確かに、電車にいた。確か変なおばさんにテロリスト扱いされて…んでめっちゃ光って……。今まで気を失ってたんか?でも、気を失ったからって、こんな…)


 今、一心は鉄とも石とも取り難い何かに座っている。とりあえず、石ではない。というより自然な物ではない。所々植物が生えているが、ここまで平らで凹凸のない地面など自然にはない。どこからか耳を通り抜ける風の音。どことなく不安を煽るような、そんな音だ。


 どこだか分からない、それだけでかなりの恐怖を感じる。一心は自分のいるこの鉄の箱のようなものが何なのか、勇気を出して調べてみることにした。


「ってアアアッ!!っとっおっふ。」


立ち上がって少し躓いただけのはずだった。しかし、視界が広がって気づいたが、ここはかなり高いところにある。目測だが、地上100mは絶対にある。幸い高いところは苦手ではないが、流石に恐怖を覚えた一心。


 驚愕と恐怖からしばらく立ち上がれず、後ずさるように壁まで這っていくとどこからか声が聞こえてきた。


「おーい、誰かいるか〜!」


聞いたことがあるような気がしたが、今はそんな場合ではない。


「いまーす!!ここでーす!!」


恐怖から一転、立ち上がって声を張り上げる。

ここ、といっても自分ではどこだか分からないが、声で探し出してくれるはずだ。


 少し待っていると……


「エ?」


「お?」


「?」


なんと、岩陰から場違いなスーツ姿の男が出てきた。それも2人。


「……あ、君は電車の!」


若い方がこちらを見て言った。中年の男の方も驚いた顔をしている。


「あ、電車の!!」


そう、気を失う前、ともに発狂した2人だ。名前も知らない2人だが、人に会えたというだけで心が休まり頬が緩む。


「君もいたのか、無事か?」


中年の方が話しかけてくる。


「はいぃ…僕は大丈夫です。2人は?」


「この通り、ピンピンしてるっすよ。」


今度は若い方が答える。何故かあまり慌てていない。どうやら、互いに無事なようだ。


「あの…ここがどこだか、分かったりしますか?」


とりあえず聞いてみる。


「いや、私たちもわからないんだ。」


「ぁっまぁそうですよね…。」


やはり、この2人も分かっていないよ


「2人ともカンが悪いっすね〜」


「え?」


「エ?」


(いや、なんだ?妙に慌てていないと思ったら、コイツが仕組んだことなのか?)


一瞬で疑念が溢れ出し、何故か一歩後ずさる。


「…これは、異世界召喚っすよ!!」


(……???)


「お前、ちょっと落ち着け。」


中年の方がツッコミを入れる、当然だ。


(何を言っているんだコイツは。)


しかし、状況の説明がつかない。それ故に否定ができない。この状況ではどんな発言もありえない、などと断言できないのが現実だ。


(やばい、どうだろ。あれ?もしかしたら本当にそうなのか?)


電車内での眩い閃光、目の前にあるこの状況、どちらも普通ではあり得ないことだ。 


「……もしかしたらお前、証拠でもあるのか?」


中年もどうやら疑いを捨てきれないらしい。


「あっそうか。課長、高いところ苦手でしたね。ちょっと勇気出して、あの辺見てみて下さいよ。」


そういうと彼は壁のない方、つまりは地上の方を指さした。


「あっ動いた!今飛んでます!」


「……お、おぉ?!」


「……うわっ!」


眼下に広がる高原。そして彼の指差す外れの荒野。……確かに、いた。コウモリのような翼に、トカゲのゴツいバージョンみたいな体。そして遠くからでもわかる、鮮やかな赤。


「えっと…あれって…」


「そう!ドラゴンっすよー!」


(…マジでドラゴンだ。)

嘘偽りなく。この目に写っている。見るということすら許されないはずの、まさに雲の上の存在が、そこにはいた。


「…カッコいいな。」


「……そうですね。」


中年が独り言のように呟き、一心も同意する。


(リアルドラゴンカッコよ。イケメンかよ。)


「…えっ?てことはマジで異世界ですか?!」


今更驚愕の声を上げる。


「多分、そうっすね。」


(何でそんなに落ち着いてるんだよ。)


「何でそんなに落ち着いてるんだよ。」


中年と気持ちがシンクロする。


「だって、落ち着いたとしてもですよ?」


(だとしても?)


「どーやって降りるんすか?」


その言葉で、自分の置かれている状況を思い出した。眼下に広がる高原、人が住む気配もない。


(……あれ?詰んでね?)


脱出マジックでないのなら、魔法を使うしか方法はない。



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