♯30 濁闘-2


 「デスガト様!!助太刀します!!」


「コ、コアペネ!?」


コアが犬のように走り抜ける。今までの速度の比ではない。

 

「…おお!君は…!」


デスガトと呼ばれた男がこちら、と言うよりコアを見る。

 

「紅閃魔導——」


コアはそのままの勢いで飛び上がり—


灼閃羅刃しゃくせんらじん!!」


紅く燃える矢が円を描いて飛び散る。着弾した矢が紅く光り、他の矢がより激しく燃え上がる。


燃え上がる矢が怪人達を貫く。何と一撃で周囲の怪人を一掃したのだ。


「…コアペネ…厨二…」


「あいつ、急にどうした…?」


困惑する女性陣。口調も速度も様変わりしたコアは、まるで5年前の時のコアだ。


「ヌハハハッ!脆い脆い!!」


高笑いするコア。そして——


「…コア…助かった。会えて、嬉しいよ。」


人ならざる男が、コアに言葉をかける。着地したコアが、男に歩み寄る。


コアが笑顔で、口を開く。


「……お久しぶりです。デスガト様ッ!」







「……なるほど、あなたには才能があるようです。」


「うるせぇ!オラァッ!」


カズシは拳を振るうも、それがベアラーに当たる気配はない。戦闘が始まってからもベアラーは表情を変えずにいる。


「アあアッ!!」


「クッ…ソ…!」


怪人が肥大化した右肩で突っ込んでくる。


「コイツ、速い…!」


他の怪人と比べて大きさ、機動力共に圧倒的な強さ。二体一の状況で苦戦を強いられる。


「面白いですね…無意識の内に攻撃を魔力で強化している。サンプルがないので何とも言えませんが、興味深い結果です。」


「こんのッ!」


ベアラーは息切れする様子すらない。カズシは攻め続けるが、体力に限界がある。


「ううウう…」


「……チッ…」


「ぅがハぁッ!!」  


怪人が口から液体を吐き出す。液体というより弾丸に近い。至近距離のカズシは後ろ跳びでかわす。


距離を取らされ、攻撃の間合いが取れないカズシ。相手は遠距離攻撃を持ち合わせ、接近する様子がない。


「……違和感を持ったことはないですか?」


「ガアうっ!」


「…クッ…何のことだ。」



手を背中で組み、空を見上げるベアラー。


「……あり得ないんですよ。その戦いぶりは。」


「……クソッ…」


怪人の攻撃にカズシは距離を詰めることができない。


「……あなた、記憶喪失ではないんですか?」


「…何が言いたい!?」


円状になっている空き地、完全に端と端に陣取る両者。


「記憶がないなら、その戦い方はどこで学んだのですか……それとも、この短期間で経験を重ねたとでも?」


「だから、何が——」


   ドガッ


「がっ…!」


確かに、距離があった。


「…な…!?」


カズシは地面に伏し、ベアラーに踏みつけられている。元いた場所には、怪人が取り残されるのみ。


(見えなかった。何をした!?)


「あなた…記憶、ありますよね?」


「…何を…言って…!」


カズシは起き上がろうとするが、山を動かそうとでもするような感触。全く上がらない。


「私は興味があります…あなたの体の奥底で、あなたを突き動かす遠い記憶。しかしそれにあなた本人は気付いていない。」


「一体どういうことなのか…」



「あなたの体、調べさせてもらっていいですよね?」


ベアラーの顔は見えない、それでも分かる。今、確実にベアラーは笑った。カズシはそういう確信があった。


(…まずい…どうすれば…)


負け、死、その言葉がよぎった時——


「……そこのお嬢さん。」


「!」


近くから男の声が響く。低く、深く、場を沈めるような重厚な声。


「…まず、その足をどけなさい。」


「そうだッ!デスガト様に従えッ!」

 

「……これはこれは。前王デスガト陛下ではないですか。」


悪徒と対峙するのは、王国の槍と柱。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る