♯9 貫け!!
「分かっているのだッ!貴様らだろう!!八方の血柱を壊して回る不届きものは!!」
怒声ともとれる大声があたりに轟く。柱の最上階、それより上の柱の先端からだと言うのに耳元で叫ばれているようだ。
「一心、下がれ。」
武田が静かにこちらを見る。しかし、一心以外の3人も武装しているわけではない。相手の姿が未だに分からないのでなんとも言えないが、まともに戦える状況ではないだろう。
「我々の安寧に爪を立てる輩を、野放しになどできん!!覚悟しろッ!!」
瞬間、影が飛び上がり落ちてくる。着地と同時に甲高い金属音が響く。影は落下に動じることもなくすぐさま立ち上がり、こちらを見据えた。
「……!あいつは…。」
姿を現したのは、若い男。目と髪が沈んだように赤く、銀色の鎧と赤い槍を装備している。刺々しいシルエットは戦士というより、暗殺者を想起させる。
「我が名はコア・ペネタラーレ。王国の槍をもって、貴様らを貫いてやるッ!!」
怒声とほぼ同時に、空を切るような音。真紅の槍が四方向に打ち出される。3人はそれぞれかわすが、一心にそんな技術はない。
「やっやべぇっ!」
槍が一心を貫く瞬間、青い光が槍を相殺した。見るとサファイアの左腕が薄く光っている。
「あ……ありがとう。」
「落ち着け、前を見ろ。」
コアはなお槍を放ってくる。真紅の槍は真っ直ぐに4人に進み、空を切る音が互いに共鳴するので音すら聞き取れない。一心は転げながらもサファイアの助けを借りてかわし続ける。
「クッ…確かに技術はある。私の槍をここまでかわす者もそう多くはない…。」
槍の攻撃が収まり、4人がコアを見据える。背後の壁は槍によって崩壊寸前だ。
「貴様ら、武装もせずにここに来たようだが。……どうやら我々を相当舐めているらしいな。」
コアが錦に飛びかかり槍を振るった。既のところで刃の部分を避けるが大きく吹き飛ばされる。紙のように飛ばされた錦はそのまま武田に衝突。コアはその間にもサファイアに接近し、槍を振るう。
「私の本業は接近戦だ。」
サファイアは氷の障壁で対応するが、コアの膂力がそれを上回る。氷は容易く貫かれサファイアの首筋を掠めた。
「お前、仕事はいいのか?」
後ろに跳び、距離を取ったサファイアが言う。
「安心しろ、これが任務だ。」
コアはそう言うとすぐさま距離を詰める。やはり氷の障壁は意味を成さず、次々と砕かれていく。先程よりも手数が増えたコアがサファイアの首を捉えた。
「「オラァアッ!!」」
凶刃が首を刎ねる寸前、突如現れた錦と武田がコアに突進。予想外の攻撃にコアは距離を取る。
「……ほう。中々にタフだな。あのまま気絶したと思っていた。」
感心するようにコアが言う。その顔は笑ってさえいた。
「舐めてもらっちゃ困るね。」
「あんなダサいままじゃ終われないっす!」
2人はまだまだと言わんばかりにコアを睨みつける。
「……あの2人、死んでなかったんか。」
「「死んでねーわ」」
一心がかなり失礼なことを言う。半年間の差をここにきてようやく実感した。
「サッちゃん、なんか思いついたっすか?」
「思いついた、と言うよりこれしかない。」
体制を立て直した3人は作戦を講じようとするが。
「いつまで話しているつもりだッ!!」
コアは当然、隙を与えずに襲いかかる。先程の飛び道具と同時に、コア本人も飛びかかる。しかし先程と違い、飛んでくる槍は氷の障壁に阻まれ意味を成さない。
「甘いなッ!」
砕ける氷に視界を阻まれコア本人への反応が遅れる。荒れ狂う真紅の槍に3人は反撃ができず、今度はサファイアが後方へ打ち上げられた。
「大丈夫か?!」
すぐに武田が距離をとり、サファイアに駆け寄る。対峙する錦とコア。
「オラっ当たれぇ!!」
なんと錦の手から暴風が放たれた。その威力は周囲の鉄塊を揺るがし、コアに直撃した。またもや予想外の攻撃にコアは距離を取らされる。
「…フフフ…面白いッ!!」
轟く轟音は怒声ではなく、歓喜の雄叫びに変わっていた。
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