♯32 濁闘-4


 「オオオ…」


怪人が天を仰ぎ、低い唸り声をあげる。


「フン、こんなハリボテ壁にもならん!」


コアが髪を後ろで束ね、戦闘態勢を取った。


「……行くぞ!」


デスガトの合図で二人が駆け出す。デスガトは怪人の左腕へ、コアは右足へ走り込む。怪人の巨躯はこの狭い円形の戦場において不利に働き—


  ズジュウッ 

           ビチャッ


「アアアアアア!!」


膝が崩れ落ち大地が揺らぐ。怪人は呻き声を上げ腕を振り回す。


「……サファイア、カララギ、カズシ!!コイツは私達が引き受けるッ!黒女を追えッ!!」


怪人の剛腕をいとも容易くかわしたコア。空中で後衛のサファイア達に声を張る。


「分かりました!どうかご武運を!」


カララギがいち早く反応しカズシ達に目配せをする。


「今のうちです、早く追いかけましょう!」


「…分かった。」


「おう、早くいくぞ!」


   ビシュッ


駆け出す3人に血弾が襲いかかるが—


「——やはり、見かけばかりのハリボテ。大したことはないね。」


デスガトの槍が血弾ごとレヴナントを貫く。駆け出した3人を止める術を、もはやレヴナントは持ち合わせていない。


駆ける背中が小さくなっていく。


「イギィアアアア!!」


「!?」


「これはッ!?」


レヴナントの咆哮。円形の戦場に、これまた円状に赤黒い光が現れる。そして——


   ドグッ


「……なッ…!」


「コア!!」


血の棘、そうとしか比喩のしようがないものがコアに襲いかかる。コアは槍と足捌きで回避と相殺を図るが、うねる血棘は執拗に急所をつけ狙う。


「フンッ!退きたまえッ!!」


さらにたたみかけるレヴナントをデスガトの奇襲が追い立てる。その時—


  ズウッ…シュウゥ…


槍の先端が血棘の根本、赤黒いサークルを貫いた。するとサークルが歪み、血棘が根本から弾けていく。


「デスガト様!感謝します!!」


様子を見たコアが赤黒のサークルを叩き潰す。血棘はついに全てが弾け飛び、2人は再びレヴナントを見据える。


「アアア…」


「小細工では我々には勝てぬッ!」


「…トドメと行こうか。」


対峙する両者。


「グオオオオォーッ!!」


腐肉の魔人、決死の咆哮——







「…奴は…どこへ…?」


「分かりませんが…あのまま歩いて行ったのであれば、そう遠くではないはずです。」


円状の広場、行き止まりを無理やり飛び越えた先。スラムとは大違いの整備された道が続く。


「…このままだとコルト町に行き当たる。もしや本街も手遅れか…?」


サファイアの表情が曇る。


「いや…あの生臭い臭が全くしなくなってる。化け物は放ってないと信じたいな…。」


そう答えるカズシの顔も明るくはない。


走り続け、街の入り口が見えようとしている時、


「…もう…街が——」




カララギの言葉は、そこで途切れた。


「!?」


「なっ!?」


消えた。サファイアとカズシ、そして並んで走っていたカララギの姿が消えたのだ。


足を止め振り返るも、カララギの姿はない。助けを求める声が聞こえるわけでもなく、存在そのものがなくなったかのようだ。


「どっ、どこだ!カララギ!!」


「どういうことだ…!?」


辺りに呼びかけるも、応答する声はない。一面砂地の風景。見えないはずはない。


「……え…?」


カズシがサファイアの方を振り向いた。


「…嘘だろ、サファイア!どこだ!!」


音沙汰なく消えていく仲間。サファイアもまた、どこかへ消える。


「…何だ…何が…!?」


目を見開き、汗が吹き出す。


「おい!サファイ——」




「——そんなにお仲間が大事ですか。騒いでも何も起こりませんよ。」


「!?」


自分以外の全員が消えたはずだった。サファイアの名を叫んだ瞬間、目の前にベアラーが現れたのだ。透明人間が瞬間的に色を取り戻したかのように、一瞬で現れた。


「…ご安心を。乱暴な真似はしませんよ。」


ベアラーの言葉は、重く肩にのしかかる。




 

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