♯11 残影


 「転送魔法に必要な工程は2つ。1つ目は現在位置に渦を生成する。二つ目に転送先へ対象の情報を送る。」


サファイアがそういう間にも、渦は光を増す。


「……なるほど。私の負け、だな。転送魔法を撃退に使うとは思っていなかった。」


光に包まれるコア。もう槍の先端が見え隠れするだけで、コア本人は完全に光の中だ。


「正直予想外だな。まさか一人も捕らえられないとは。……覚えておけ。我が名はコア・ペネタラーレ。次はこうはいかんぞ。」


青と緑の輝きがあたりを照らす。崩れた血柱は最早の瓦礫の山だ。やがて光は弱くなり、そこにコアの姿はなかった。


 

 「……急いでここを離れるぞ。理由は移動しながら説明する。行くぞ。」


コアが転送されたことを確認するなり、サファイアはそう言って走り出した。3人も急いで後を追う。といっても辺りは瓦礫の山。足場が悪く思ったように進めない。


「転送魔法はその性質故、痕跡が残る。あの男が私たちを追跡できたのも、恐らくはそのせいだ。」


サファイアは走りながら話し始めた。まだ日が昇っていないので視界が悪いが、サファイアが青白い光で辺りを照らしているので、3人も転ぶ気配はない。


「となると私たちがいたあの家も、特定されるだろう。何より。」


三人がサファイアに追いつくと、どうやら瓦礫の山は抜けたようだった。辺りは開けて、低い草が生い茂る草原。よく見えないが地面は土より岩に近い。


「コア・ペネタラーレ。やつは王国の兵を束ねる存在。もう追手を放っている頃だ、一刻も早く身を隠さなければならない。」


徐々に朝日が昇り、少し視界が改善される。先程までは気づかなかったが、今走っている場所は少し崖を登ったところにあるようだ。先頭のサファイアが右に曲がり、その先には小さな川があった。


「この川に沿って進むと、王国の地下街につく。そこならしばらく身を隠せるだろう。」

「……なるほどな。厄介な奴に目をつけられたもんだ。」


「あ〜あ。あそこに鎧置きっぱじゃないすか。もったいねぇっす。」


錦のぼやきが静かな川沿いに響く。コアとの戦闘直後、休むことなくなく走り始めたので4人の顔には疲れが浮かんでいた。


「……で、後どんぐらい走るん?」


「そうだな。30分ぐらいで着くはずだ。」


「まじぃ〜?!俺もう疲れたんだが〜?」


「おいおい、弱音言うんじゃねぇぞ。若者。」


「そうじゃぞっすよ。青二歳。」


「2人の言う通りだな。若輩者。」


「キレそう。」


くだらないやりとりをしながら、4人は進んでいく。まだまだ早朝といった具合で、辺りは薄い茜色を帯びている。


「……3人共、静かに。」


川を辿って小さな森に差し掛かったところで、サファイアが脚を止めた。辺りには鳥のさえずりと、……微かな金属音が鳴り響いている。


「もう来たんすか。仕事熱心っすね〜。」


そう言う錦も顔には苦笑いを浮かべている。もう一度耳を澄ませるが、人間の気配は気のせいではない。


「……?」


その時、一心が人影を見つけた。しかし森に赤紫色の人型が浮かんでいるだけで、とても人間とは言えない。


「おい、あれなんだ?」


「……何って、何のことっすか?」


一心は錦に聞くが、錦は何のことか分からないらしい。一心が人型の方を指差した瞬間。


「錦ッ!」


「うおっ?!」


一心が指を刺した方向から赤い矢が飛び出す。間一髪で2人ともかわすが、赤い矢は数を増して襲いかかる。


「フン、舐めてもらっちゃ困るっすよ!」


錦の腕が薄く光り、突風が矢を弾く。なお数で押す赤い矢だが、その一発として錦に届くことはない。


(これ……もしかして…)


錦へ襲い来る赤い矢。そしてそれを放つ者。武田の背後から忍び寄る人影。しかし本来、木々に阻まれ見えないはずのもの。一心には赤紫の何かが見え始めていた。

    

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