♯12 川を辿って


 「……武田。後ろを見ろ。」


一心の視界が正しければ、武田の背後の茂みに3人隠れている。


「……!一心、よく気づいたな。」


武田が気配を感じ取った。朝日が昇り視界が改善されているので、目を凝らせば鎧に反射した光が見える。だが一心が見ているのはそれではない。


(やっぱり…俺が見ているのは幻じゃない)


一心は確信した。原理は分からないが、自分には隠れている刺客が見える。そう分かると自然に声が出た。


「聞いてくれ、俺には奴らがどこにいるか見える。俺が後ろから位置を教えれば、逃げきれると思う。」


「……なんだ急に。まぁいいけど。」


思ったよりも軽く了承するサファイア。と思った瞬間には走り出す。慌てて3人が追いかける。川沿いを走りながら一心が辺りを見回すと、赤紫の影があちこちに浮かんでいるのが見えた。


「えっと、前の右!その…上の方から来る!」


バカみたいな知らせ方をする一心。たが実際、前方右の樹上から鎧を装備した兵士が現れる。


「嘘ついてるのかと思ったっす。」


「思ったより当てにならないな。」


「真面目にやってくれ。」


かなり不評だが4人は走り続ける。追手との衝突を避け、出来るだけ走り続けるようにする。


「後ろの左の方から矢が来てる!」


「了解っす!」


矢は錦が風の魔法で退け。


「すぐ左の木の陰、兵士2人!!」


「分かった。」


地上の敵はサファイアが氷漬けにし。


「樹上、1人来る!」


「任せろッ!」


飛びかかる敵は武田が殴り飛ばす。

そうして走り続け森を抜けると、川は洞窟に続いていた。そのまま4人は洞窟に吸い込まれていく。


 

 洞窟内は思いの外広く、川の幅が大きくなった。一心が追手が来ていないことを確認し、4人はゆっくり歩き出す。


「……転生者や召喚者の一部、五感のいずれかに特殊な能力を宿すものもいるらしい。一心の目も、それに分類されるものだろう。」


サファイアは相変わらず突然説明しだす。三人は慣れたのか特に戸惑う様子はない。


「俺たちもなんか欲しいっすね〜。」


「……別に、私は今で満足しているぞ?」


「そういうアピールいいっす。」


「…じゃあ何が欲しいんだ、お前は。」


「う〜ん……まぁ、特に思いつかないっすけど。」


「なんだお前。」


洞窟内にはくだらない話し声と、3人の足音が響く。所々発光しているので思ったほど視界は悪くない。


「一心君、それってどんな感じなん……」


錦が発光する岩肌を見ながら聞こうとしたが、何かを思い出したように口が止まる。


「あれ、川沿いに行くんじゃなかったっすか?」


「……道を間違えたな。」


サファイアが振り向き、真顔で答えた。いつの間にか右に流れていた川がなくなっている。全員疲れてはいるが、追手もないので焦る必要はない。……はずなのだが。


「……おい、2人。一心がいないぞ。」


「……あれ〜?」


「…少しボーッとしすぎたな。」


追手から逃れ、気が緩んだのだろうか。発光する岩肌には3人の人影が映り込むだけだった。



 「……ん…?」


その時、一心もまた異変に気付いていた。


「……いねぇ。」


辺りはしんと静まりかえっている。光る壁、川の流れと一心の呟きが反響して洞窟の奥に吸い込まれる。


(参ったな……多分道あってるし…戻んのだるすぎだろ……)


道は合っていても一心には自衛の手段がない。安全のためにも戻るしかないのだが、(せっかく進んだのに)と思わずにはいられない。一心は若干脱力して歩き出した。戻るのではなく、また進んでいく。


(ノロノロ歩いてたらあいつらもすぐ来んだろ)


川のせせらぎと、発光する壁。壁にはゆっくり歩く一心と、深い闇が映り込んでいる。


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