第19話 レヴィン、知識を詰め込む
レヴィンはあっさりと初日が終わったので、記憶の確認がてら少し校内をうろついてみる事にした。
まだ午前中なのだ。
レヴィンは、教室のある三階から周ってみる事にした。ちなみにシガント魔法中学校は三階建ての建物である。Bクラスを出て当てもなく歩き始め、Aクラス、Sクラスと各教室の前を通り過ぎる。何となく教室の中をチラチラと覗きながら通り過ぎるが、ほとんど人がいない。既に帰宅したのだろう。
廊下の突き当たりまでくると階段があったので降りていく。
ついでに二階の廊下も通ってみたが、特段、記憶に訴えかけるものはなかった。
一階へと降りると、どこからともなく良い匂いが漂ってきた。どうやら食堂があるようだ。鍵がかかっている訳でもなかったので中に入ってみると、何となく懐かしい感じがする。
中学の二年間は、学食で食事を済ませていたのかも知れない。
そんなことを考えていると、横手から威勢の良い声が飛んできた。
「なんだなんだ。
「いえ、始業式が終わって解散になったので」
「ああ、今日は式だけの日だったか? 食べてけ食べてけ! お勧めは日替わり定食だな。なんと大銅貨三枚だッ!」
おっさんに寄れば、早終わりの日も先生が食べにくるので、食堂は休日以外はやっていると言うことだ。
「話は聞いたよッ! 学食よりもパンでも食べていきなッ! 今なら売り切れ必至の伝説の焼きそばパン、大銅貨一枚だよッ!」
今度は食堂内にいたパン売りのおばさんが声をかけてきた。
レヴィンはその言葉を聞いた瞬間、衝撃に襲われた。
「伝説の焼きそばパンだと……?」
十中八九、異世界人……しかも日本人が教えたであろうパンである。
レヴィンはいきなり異世界人の痕跡を見つけてしまい、少し苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、焼きそばパン一個でお願いします」
レヴィンはお金を払うと、早速かぶりついた。
まだこの世界で自我を取り戻してから大した月日は流れていないが、懐かしい味だ。
それに美味い。
レヴィンは、中学では持参した弁当を食べていたのか、学食で食べていたのか気になった。明日からは通常授業なので、明日になれば分かるだろう。
食堂からは中庭が見える。住宅がひしめき合う王都の中に建つ学校なのにも関わらず結構なスペースが確保されている。
学校の中央部分にあたる場所のようだ。レヴィンは緑があって良いなと感じる。
ベンチや芝生が整備されており、ここで食事を摂る生徒も多そうだ。
食堂から出たレヴィンは、一階のクラスの前を通り過ぎた。
一階も他の階と同じような造りになっており、SクラスからEクラスまで並んでいる。Eクラスの向こう側には玄関と階段があり、さらに進んでいくと空き教室が何部屋かあった。その先にも何か部屋があるようで両開きの扉が見える。
「ん? これは本の匂いかな?」
興味を持ったレヴィンがその扉のところまで来ると、図書室と書かれたプレートが壁にはめ込まれている。
予想した通り図書室であった。
早速、レヴィンが扉を開けて中に入ろうとすると、入口の横手で机に向かっていた司書に止められた。
目つきが鋭く、少しきつそうに見える女性だ。
「学生証を提示してください」
「学生証……?」
「何でそこで疑問形なの……。あなた、三年生でしょう?」
レヴィンが不思議そうな顔をしたので、彼女は呆れたような表情になる。
怪しまれるのも面倒臭そうなので、レヴィンは慌てて学生服のポケットをまさぐった。
入っていたのは、ハンカチとメモ帳だけだ。
ズボンの方も調べてみたが、小銭の入った財布しかない。
レヴィンはどうしたものかと腕組みをして固まってしまった。
「内ポケットは?」
「はえ?」
「ですからッ! 制服の内ポケットには入っていませんか?」
それを聞いて、慌ててまさぐるレヴィン。するとそこにはまさに学生証が隠されていた。しかも、その学生証には顔写真まで貼付されている。
レヴィンは、それを両手で掲げて感動に打ち震えた。
まさか写真があるとは思ってもみなかったから。
再び、動かなくなった
「では見せてください」
その声が少し怒気をはらんでいるように感じたレヴィンは、急いで彼女に学生証を提示する。
彼女はそれとレヴィンの顔をまじまじと見比べると今度こそ中に入れてくれた。
たかが図書室に入るためだけにも関わらず、少し消耗してしまったレヴィンであったが、気持ちを切り替える。
早速、魔法関連の書籍がないか調べにジャンルの書かれたプレートを見て回る。
ここは魔法専門の中学校なのだ。王立図書館にない本も眠っているかも知れない。
最初に見つけたのは『歴史』のプレートであった。
『アウステリア王国史』、『世界史』など、他にも結構な数が揃っている。
「魔法が最優先だけど、この世界のことを知るのも大事だよな……」
レヴィンは『世界史』の本を手に取ると、パラパラとめくった。
ルニソリス歴1500年シ・ナーガ帝國動乱。
「いや、ここら辺は記憶に残ってるはず。その内思い出せるだろ」
レヴィンは、しばらく本に目を通したが、そう思い直してすぐに閉じる。
違う場所に目を向けると、今度はプレートに『魔法』の文字を見つける。
『猫でも解る魔法入門』、『黒魔法の応用』、『図解!神代の言語』など様々な魔法の本があるが、中でも黒魔法と白魔法のものが多いようだ。
レヴィンは、王立図書館で見たことのない本を見つけて興奮を隠し切れない。
取り敢えず『黒魔法の応用』のページを開こうとしたその時であった。
「いたーッ!」
図書室にアリシアの声が響き渡る。
「図書室ではお静かにッ!」
すぐさま、司書に大声で注意されるアリシア。
「す、すみません……」
彼女は謝りつつも、レヴィンの方へと近づいて来る。
シーンも一緒である。
アリシアは今度は声を潜めて言った。
「もう……。急にいなくなったと思ってたらこんなところにいたんだねッ! 待ってたんだよッ!」
「ええ……。待ってるとは思わなかった……。せっかく午前中で終わったんだから探検してたんだよ。そしたら図書室を見つけたもんで。ちょっとね」
「ちょっとね。じゃなーーーい!」
流石はアリシアである。声を潜めながら怒鳴るという変態技を繰り出してくる。
「どうせ帰っても暇じゃんか。教科書も明日にならないともらえないし、平日はダライアスが家の手伝いだから狩りにも行けないしな」
「ぐぬぬ……」
ぐうの音も出ない正論にアリシアが沈黙する。
「アリシアももっと本を読めばいいと思うんだよ。ほらッこれなんかどうだ?」
そう言うとレヴィンは一冊の本を手渡した。
『ゼロから始める付与術士生活』
「うぅ……。分かったよ……」
やっと観念して本を受け取るアリシア。
シーンも本を物色し始めている。
レヴィンも読書を再開する。
「おッ、新魔法発見。睡眠の魔法か……」
結局、その後は三人揃っての読書会と相成ったのであった。
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