第15話 レヴィン、パーティを結成する
シーンを紹介し、アリシアとシーンの装備品を渡したレヴィンは、シュタッ!と手を上げると家から飛び出した。
もちろん、アリシアとシーンも一緒だ。
後ろでは「忙しない子だね」とリリナがぼやいている。
「さぁ、お次はダライアスだ」
レヴィンはそう言うと、勢い込んでダライアスのお宅訪問に向ったのだが、あいにく家は留守であった。
ちなみに住所は小学校の時の名簿を見て確認した。
掘り起こした記憶によれば、彼の一家は農家なのである。
家族構成は、父、母、ダライアス、妹の四人家族だったはずだ。
と言うことは、城壁外の畑に居る可能性が高い。
別に約束していた訳ではないので留守なのは仕方がない。
レヴィンはすぐに切り替えて城壁外へ向かうことに決めた。
父親のグレンから農民や農奴は、西のトータス地区に多く住んでいることは聞いていたので、取り敢えずレヴィンは西門を目指した。
「ねぇ、レヴィン。ダライアスの居場所に心当たりはあるの?」
「ないんだな。これが」
アリシアがこっそりと囁いてくるが、レヴィンはまだ思い出せていなかった。
城壁外に出たら、農家の人たちに片っ端から聞いてみる他ないだろう。
しばらく歩いて三人はようやく西門に到着した。
やはり歩きは時間がかかる。
かと言って街中で馬車に乗るのも無駄な気がするレヴィンであった。
西門の外には一面の小麦畑が広がっていた。
とは言っても、まだ穂が実っている訳ではなく、出芽したばかりの状態のようだ。
お陰で、どこに農家の人がいるのかすぐに把握できた。
早速、ダライアスの名前を出して聞き込みを開始すると、あっさりと畑の場所が判明した。
城門からそれほど離れていないようでレヴィンはホッと胸をなで下ろす。
今日は結構な距離を歩いたので、アリシアたちが疲れていないか心配だったのだ。
三人で教えてもらった場所へ向かって歩いていると、レヴィンは少し離れた場所にいる少年の姿を捉えた。
レヴィンの脳に電気信号が走る。見覚えのある顔だ。
雑草の処理をしている彼がダライアスだろう。
おそらく本人だろうと判断したレヴィンは大声で声を掛けてみた。
「おーい! ダライアス!」
「おう。レヴィンじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ?」
レヴィンは人違いではなかったことに安堵し、にこやかな笑みを浮かべた。
頼むから探求者の件も覚えていてくれよ!とレヴィンはこの世界のまだ見ぬ神へ祈りを捧げる。間違ってもあの自称神には祈らない。祈るつもりもない。
「昔、話してたろ? 探求者になるって。遅くなったけどパーティを組もうと思って仲間を連れてきたんだ」
その言葉にダライアスの表情が曇る。
それを見てレヴィンの心拍数が跳ね上がる。
「どうかしたのか?」
「いや。実は親父に反対されていてな……」
「いつから反対されてんだ?」
「十二歳の誕生日の時からだよ。あれから何度も頼んではいるが、
取り敢えず、約束の記憶が確かであったのは喜ばしいが、三年間も説得に応じない父親の存在は想定外だ。レヴィンはダライアスに近づくと、そっと耳打ちした。
「えっと……父ちゃんの名前って何だっけ?」
「名前? ああ、ノーブルだよ。忘れたのか?」
「いや、ちょっと頭の調子がおかしくてな」
「ハハッ! 何だよそりゃ!」
ダライアスはレヴィンが冗談を言ったと思ったのだろう。
レヴィンとしては有り難い誤解であった。
レヴィンはどうやってノーブルを説得するか考え始める。
彼は、三年間もダライアスが探求者になることを許さなかった程の頑固者だ。
農家の長であるノーブルとしては貴重な働き手を失うのが嫌なのだろう。
危険な仕事をさせたくないというのもあるかも知れない。
とにかく話しながら考えようと、レヴィンは近くにいたノーブルと思われる人物に声を掛けた。
「ノーブルさん、こんにちは」
「おう、坊主か。久しぶりだな。何か用か?」
「実はこの度、探求者のパーティを結成することになりまして……ダライアスが探求者になるのを認めて欲しいんです」
「駄目だ。農家にとって人手不足は深刻だ。見ろ。この辺り一体は全て俺の畑だ」
ノーブルは即答すると、真剣な顔をレヴィンに向ける。
そして、両手で周囲に広がる畑を指し示した。
そこには広大な農地が広がっている。
「探求者になれば良いお金になります。作業効率を上げる農機具だって買えるようになるでしょう」
「お前たちは駆け出しだろ? 正直言ってそんなに稼げるとは思えんな」
「僕は一度の依頼で金貨二十枚ほど手に入れました」
「なんだと……」
ノーブルの手が止まり、レヴィンの方を凝視してくる。
レヴィンは喰いついてくれたと心の中でガッツポーズを決める。
「それも初任務でその額です。魔物は魔石や素材になりますので売ればお金になります」
「……」
ノーブルが沈黙する。
予想以上の報酬が見込めると知って心が揺れているのかも知れない。
レヴィンが一気にたたみ掛けようと口を開きかけたその時、ダライアスが割って入った。
「親父! 俺からもお願いだッ! デリアの学費だって稼いでみせるッ!」
それを聞いたレヴィンは思わず心の中で頭を抱えた。
レヴィンにはノーブルの考えが理解できた。
ここで妹をダシに使うのは悪手である。
「金は大人である俺がなんとかする。子供が口を挟む事じゃねぇ」
そう言うとノーブルはぷいッと顔を背けて作業に戻ろうとする。
それでもレヴィンは諦めない。
アリシアとシーンも成り行きを固唾を飲んで見守っている。
「他にもメリットはあります! 獣を狩ればその肉を得ることもできます」
「……」
「まずは春休み中の手の空いた時に彼を連れて行く許可を頂けませんか? それに四月からは休日のみの活動になります。農作業に支障をきたさないと約束します!」
「……」
「親父ッ!」
ノーブルは耳を貸さない。態度は頑なだ。
するとダライアスは「もういい……」と呟くと、レヴィンに言った。
「探求者ギルドに行こう。パーティ登録もしなくちゃならないんだろ?」
そう言うとダライアスは、手に持っていた雑草を放り投げて城門の方へ早足で歩きだした。放ってはおけないので、レヴィンたち三人はノーブルに頭を下げてダライアスの後を追った。
※※※
四人は探求者ギルドへとやってきていた。
まずはダライアスの探求者登録だ。
彼は登録すら許可してもらっていなかったのだ。
「すまないが貸しておいてくれ」
ダライアスはそう言うと、持ち歩いていた戸籍カードとレヴィンから受け取った銀貨三枚を受付嬢に提出した。
ダライアスが受付嬢の説明を聞いている間、レヴィンはパーティの名前をどうしようかと考えていた。同じ事を考えていたのかアリシアもレヴィンに聞いてくる。
「ね。パーティの名前はどうするの~?」
「≪
「にーとって何?」
「伝説の
レヴィンはアリシアの目をまっすぐ見つめ、断言した。
「伝説……カッコイイ……」
シーンの目がキラリと光る。
「他に何か案があったら言って欲しい」
「リーダーはレヴィンなんだからそれでいいよ~」
「問題ない……」
パーティ名はあっさりと決まった。
ここでダライアスへの説明が終わったようなので、パーティ結成の申請をする事にした。
「パーティの結成ですね。名前はどうなさいますか?」
「≪
「では皆さんのタグをお預かりします」
受付嬢は四人の探求者タグを受け取ると、奥に居たギルド職員に手渡した。
そして彼女はパーティについての説明を始める。
「パーティを組むと色々なメリットがございます。ソロならば受注できない依頼を受ける事ができますし、知名度が上がれば指名依頼も多くなる傾向がございますね」
「ふーん。なるほど。他にも何かあります?」
「
「
「ええ、ウルスと言う神様です。神託による情報のみなので曖昧なのですが、パーティ全員に効果のある加護や祝福が得られるようです。メンバーが成長しやすくなったり、魔力などの力が増幅されたりと効果は様々です」
すかさずレヴィンは、ヘルプ君で検索を掛ける。検索条件は、
情報によれば、メンバーの経験値アップや各パラメータのアップが見込める上、ランクが上がれば加護も増える可能性があるようだ。
ただし、何の加護が与えられるかはランダムらしい。
そして重要なことが一つ。
これは探求者ギルド創設時に、
ギルド創設は間違いなく、転生者が神の願いを叶えた報酬だ。
レヴィンはそう判断した。
「それにパーティのランクが上がれば名誉や名声が手に入り、貴族や王族など様々なコネクションの構築にも役に立つでしょうね」
ここで先程のギルド職員が全員分の探求者タグを持って戻ってきた。
それを受け取った受付嬢がタグを全員に返却する。
レヴィンはタグをまじまじと眺めた。他の三人も同じ様子だ。
パーティ名の箇所が無所属から≪
パーティランクはEだ。ちなみに全員の個人ランクもEである。
「ちなみに加護って何か解りますか?」
「加護は冒険者タグに記録されていますので、ギルドで参照可能です。≪
これで手続きは全て終了した。後は依頼を受けるだけだ。
レヴィン達は受付嬢にお礼を言って掲示板を見に向った。
「あ、そうだ。遅くなったけど、ダライアス用の装備を渡しとくな。受け取って欲しい」
「なッ!? こんなもの受け取れない!」
「もう買ってしまったんだから諦めてくれ。異論は認めない」
ダライアスは意外にもすんなりと言う事を聞いてくれた。
「何から何まですまないな……」
「気にすんなって」
レヴィンはもう掲示板に目をやっている。
アリシアはシーンとあれこれ話ながら依頼書を指差している。
しばらく検討した結果、レヴィンは最初に受ける依頼を決めた。
「よし。これなんてどうだ?」
レヴィンは依頼書を取り外すと、皆に見せた。
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