第32話 レヴィン、奮戦する
「だから爆発音の元を調べさせろと言っているッ!」
「何度も言わせるなッ! ここがどこだと思っているッ! 警備隊など引っ込んでいろッ!」
遠くの扉の方から、こんなやり取りが聞こえてくる。
やはり、警備隊のようだ。
おそらく何度も響いた爆音が彼らを引き寄せたのだろうとレヴィンは思っていた。
しかし、【
現に、ベネディクトは向こうにいる人間を感知できなかった。
ベネディクトから教わった後、色々と調べてみたいところである。
「お前ら、観念して投降しろ」
レヴィンは無駄だと思いつつも、降伏を勧告した。
それに答えたのは赤髪の男であった。
「ああッ!? ガキが何言っていやがるッ! 吐いた唾は飲めねぇぞ!」
「お前が大将か。それにしてもあんたがここにいるのはどう言う了見だ?」
レヴィンの言葉に、オロオロしていた男が更に取り乱し始めた。
「バージルと言ったか? 王国鑑定士様が悪党とつるんでるなんてなぁ」
レヴィンたちの目の前にいた四人の内の一人は、学校でレヴィンを鑑定した人相と顔色が悪い鑑定士の男であった。
「オタオタしてんじゃねぇッ! ここがどこで俺が誰だと思っている? 俺たちがガキ共に負けるとでも言うつもりか?」
「い、いえ……決してそんなことは……」
「顔が見られたからどうだと言うんだ。どうせ売り払うのだ。最悪、全員殺せば済む話だぞ?」
赤髪の男にそう言われてバージルも落ち着きを取り戻したようだ。
早速、大威張りでレヴィンたちに罵声を浴びせ始める。
「ガキ共がッ! どうやって脱出したか知らんが、どうせお前らは売り飛ばされるんだよッ!」
バージル、面白い男である。
「フレディ、いつまで遊んでいる。さっさと殺せ」
「はッ!」
赤髪の男に命令された男はフレディと言うらしい。
フレディは、先程まで斬り結んでいたヴァイスを真っ向から見据えると長剣を構えた。
その瞬間、彼の姿が消える。
そして次の瞬間、ヴァイスの左側へ現れたかと思うと長剣でヴァイスの腹を薙ぎ斬った。しかしフレディの一撃が完全に決まる前に、レヴィンの【
「クッ、
「ヴァイスッ! 下がれッ!」
フレディが完全に身を起こす前に、レヴィンが彼の目の前に移動する。
予想以上の速さに驚いたのかフレディは床を転がると、少しスペースのある場所で身を起こす。しかし、完全に体勢を立て直す前にレヴィンの魔力を込めた
「グガッ!」
苦痛の呻き声がフレディの口から漏れる。
レヴィンは各上相手に勝つには奇襲しかないと考えていた。
相手の
レヴィン
――速い
レヴィンはそれを辛うじてかわすと、どうするべきか考える。
周囲にはビリヤード台やら大きなテーブルやらがあり、限られた狭いスペースで戦う必要がある。地下からの脱出口の近くでは、ベネディクトがヴァイスに回復魔法をかけている。ベネディクトの
「貴様、中々やるな。殺すには惜しい男だ……」
「ハッ! あんたもしぶてぇな。」
レヴィンは初撃で仕留めきれなかったことを悔やんだ。
後は、異世界人としての特性を利用して肉を切らせて骨を断つしかない。
つまり、
ダメージ覚悟で。
「安心しろ。苦痛なくあの世に旅立たせてやる。名乗れ」
「俺は死ぬ気はねーぞ? だから名乗らねーことにする」
その時、鑑定士のバージルから意外な言葉発せられる。
その声色には恐怖と困惑の色が混じっていた。
「フレディ殿、そいつは引き渡す約束のはずだッ!」
「手を抜けばこちらが
「相手はあのスネイト殿ですぞッ!?」
「バージル、ここまでされて生かしておく訳にはいかん。スネイトには我慢してもらう」
「そんな……」
バージルの表情が驚愕で固まり、その顔色はいつも以上に蒼白になっている。
「フッ! そう言う訳だ。面白いヤツだがこれで終りだ。では……死ね!」
言葉を言い終えると共に一瞬でレヴィンの懐に入り込むフレディ。
その速度はレヴィンの反応速度を軽く凌駕していた。
レヴィンは、視界からフレディが消えた瞬間、魔力を込めた両腕で急所を守ると『
【
【
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
この場に響いたのはフレディの絶叫であった。
荒れ狂う
レヴィンは何とか生き残ったのだ。
その両手と引き換えに。
しかし、問題はない。
レヴィンはすぐさま白魔法を発動した。
【
シーンから教えてもらった白魔法Lv4の回復魔法だ。
その威力は体の欠損すらも治してしまう程である。
レヴィンの両腕が再生していく様子を見て、赤髪の男がボソリと呟いた。
「馬鹿な……。フレディは
レヴィンがそちらを向くと、回復したヴァイスとノエルが何とか踏ん張っていたようだ。どちらも大きく肩で息をしている。余裕はなさそうだ。ノエルの後ろには前衛組が倒れており、ベネディクトが回復魔法をかけようとしていた。
その時、向こうの扉が大きく開かれて何人もの人間が入って来た。
内側で扉を押さえ、進入を防いでいた者たちに限界が来たのだろう。
「ゲラルドッ! 警備隊だッ! 観念しろッ!」
赤髪の男の名はゲラルドと言うらしい。
扉付近にいたゲラルド一味は既に組み伏せられている。
そしてゲラルド、バージル、そしてもう一人の男は警備隊に完全に包囲されてしまった。
「ハノッツ! お前も来てくれたのか!」
ベネディクトが歓喜の声を上げている。
おそらくベネディクトの家の者なのだろう。
警備隊とマッカーシー家の正規兵に囲まれては、これ以上の抵抗は無理だろう。
レヴィンがそう思って、ようやく安堵する。
そして元の黒魔導士に戻るべく
しかし、何かがおかしい。
ひっかかりを覚えたレヴィンはステータスを確認する。
不審に思ったレヴィンは再度、
しかし、いつもなら聞こえるはずのヘルプ君の声も聞こえない。
脳内にステータスを表示させてみるも、異常はなさそうだ。
名前:レヴィン
性別:男性
年齢:十四歳
職業:
称号:異世界人、探求者、中学生
加護:
指揮:☆☆
レヴィンが困惑していると、追い詰められた三人の内の一人が呟いた。
「ここまでか……。計画は失敗だな」
「アルジュナ……? 何を言っている?」
ゲラルドの声に戸惑いの色が見える。
バージルもその男の方を怪訝な顔で窺っている。
「まったく……一番肝心な計画を破綻させおって。また一からやり直しだ」
アルジュナと呼ばれた男はレヴィンが見たこともない魔法陣を展開すると、その場から忽然と姿を消した。
残された二人はもちろん、包囲していた面々も困惑しているようだ。
レヴィンだけは男のことよりもアルジュナが最後に使った魔法陣のことについて考えていた。
「あれは転移魔法か……?
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
突如鳴り響いた爆音にレヴィンは思考の海から無理やり引き上げられる。
辺りには煙が立ち込め、警備隊の隊員が何人も倒れ伏している。
そんな中、声が聞こえた。
喧騒の中、やけにはっきりとした声が。
「約束の時刻になった。引き渡してもらおうか。バージルよ」
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