第13話 レヴィン、大いに憤る
レヴィンがパシリ神にクレームを入れて、意外な事実を知った翌日のことである。
レヴィンは目を閉じて眉間に皺を寄せていた。
ことの真相が明らかになった今でも、あの時のことを思い出すと本当に腹が立ってくる。
ここはアウステリア王国と言う国の王都ヴィエナ。
レヴィンが暮らす国だ。
この日、レヴィンは幼馴染の少女アリシアと、その友人であるシーンと共にカフェで交流を深めようとしていた。
あの時と言うのは、藤堂高志が『レヴィン』と言う名の少年として覚醒した時のことだ。
パシリ神に聞いて異世界転生の舞台裏を把握したレヴィンであったが、やはり腹は立つものだ。真っ白な空間の中で、あの胡散臭げな自称神は、確かに『異世界転生』と言ったはずだ。そして記憶はそのままだとも言っていた。
であれば、生まれた瞬間から藤堂高志としての記憶と自我を持って『レヴィン』としての新たな人生がスタートするはずだったのである。
しかしそうはならなかった。
「放置だと?
レヴィンは自我を取り戻した時のことを思い出す。
高志が目を覚ましたのは、自宅の殺風景な部屋のベッドの上であった。
取り敢えず、自分が赤子ではないと理解した高志は、すぐさま状況の把握に全力を向けた。自室を片っ端から調べ、更に家族から怪しまれない程度に聞き取りを行った。そして判明したのは、自分がレヴィンと言う名前で歳は十五の男、そして現在、シガント魔法中学校に通う三年生であると言うこと。
家族構成は、父、母、妹で、薬屋を営んでいる。両親は昔、探求者だったようだ。
黒髪で茶色がかった黒い瞳。顔にはどこか前世の面影があり、特に不満はなかったが、髪がボサボサなせいで少し暗い印象を受けた。まるでゲームや漫画のモブキャラのような容姿である。
この世界にも鏡があって本当に良かったとレヴィンは思った。最強を目指すにはまず見た目から。レヴィンは
『レヴィン』は小学校、中学校の成績は平均的。まさに並の能力を持つ平凡な学生であった。しかも、成績表の記録を見るに、あまり目立つタイプではなく、何事も波風立てず無難にこなそうとするタイプの人間であるらしい。
つまり影が薄く、消極的で受動的、そして凡庸とまさに日陰者であった。
更に学校では毎年、国お抱えの鑑定士による能力鑑定が行われているらしいのだが、中学二年時の結果はレベル8の黒魔導士で、覚えている魔法は学校で習うものだけと言うものであった。
ちなみに加護は文字化けしており、判読不能だったようだ。
その時は、加護など実装されていなかったのだから当然と言えば当然である。
覚醒したレヴィンの行動は速かった。
魔法のことをヘルプ君を呼び出して聞き、教科書を確認した後、更に王立図書館に通い詰めて片っ端から魔法書などを読み込んだので多少は状況が理解できた。
学校以外でも習得できる魔法はいくつも存在するのだ。
「インストール前のレヴィンにはダミーのエントリー○ラグでも入ってたのか?」
この事実を思い出す度に、どうしてこうなったのかとレヴィンは怒りに襲われる。
生まれた時から高志としての自我があったなら、レヴィンの十五年間はもっと有意義なものとなっていただろう。
あの自称神が言っていた通り、
ダミーレヴィンは、ずっと黒魔導士のみでレベルアップしてきたため、能力、つまりゲームで言うパラメータも恐らく魔力以外は突出したものがない。
ゲームのように数値化されていないので確認する方法はないのだが。
また、現在、
だが、レヴィンは同時にこうも考えていた。毎年鑑定されるのなら、下手に色々な
痛くもない腹を探られるのは避けたいところなのである。
しかし、何か抜け道があったかも知れないのだ。
実際、パシリ神はステータスを偽装する魔法を実装してくれると言う。
これで今年の鑑定で、騒ぎになることもないだろう。
それを考えると、空白の十五年間はあまりにも惜しい。
こんな葛藤がレヴィンの中で何度も繰り返し行われてきた。
「……ン! ……ヴィンってば! ねぇ聞いてるのレヴィン!」
その声にレヴィンはハッとうつむいていた顔を上げると、すぐに返答をする。
「ん? アリシアどうした?」
「え~、急に黙り込んでぶつぶつ何か呟いてるからどうしたのかと思って……」
「悪い悪い。俺から誘っておいてゴメンな」
現在は春休み中である。
十五年間の記憶が曖昧なので、友人がいるかも不明な中、幼馴染がいてくれたのは大きいとレヴィンは考えていた。
彼女の協力も得て過去を取り戻すべく、レヴィンは『中学三年デビュー計画』を発動したのだ。
自我を取り戻したレヴィンは短時間で状況を把握し、カルマへの護衛任務を受ける前にアリシアに協力を要請していた。
強くなるために一緒に探求者のパーティを組もうと誘ったり、異世界での生活が充実したものになるように中学校生活のアシストを頼んだりした。
アリシアは快く協力してくれることとなった。
彼女がいなかったら、初っ端から過酷な異世界生活になっていたかも知れない。
取り敢えず、アリシアに白魔導士のシーンを紹介してもらい、今日に至ると言う訳である。
ちなみにアリシアには、何故か記憶が曖昧だと言うことは打ち明けてある。
「レヴィンが急に誘うからあたしびっくりしちゃった!」
「どうして私も……?」
「いやな、今までの俺は俺じゃないって言うか……。まぁこれから新しい自分として生きていこうって決めたんだよ」
「新しい自分? なぁに? 宗教か何かみた~い!」
「……哲学」
アリシアの少し甘ったるい笑い声がレヴィンの耳をくすぐる。
シーンは何か勝手に悟っているようだ。どこか納得したような顔をしてうんうんと頷いている。
「それにパーティの仲間だ。俺がアリシアとシーンをお茶に誘うのに理由はいらないだろ?」
レヴィンの言葉に二人は納得の笑顔を見せる。
それを見てレヴィンの心はとてつもなく癒された。
今なら自称神の狼藉も我慢できそうなほどだ。
「んで、アリシアは付与術士でシーンは白魔導士だろ? 魔法陣を教えて欲しいと思ってさ」
「あたしはいいよ~。」
「勝手な
確かにこの国は
明確な理由は分からないが、恐らくは国民に力をつけさせ過ぎないようにするためだろうとレヴィンは考えている。
「もちろん、俺が強くなるためだよ」
「……?」
シーンはレヴィンの回答には納得していないようだが、レヴィンは今はまだ秘密を打ち明けるつもりはなかった。
レヴィンは学校での鑑定を誤魔化せることになったので、春休み中に
「お~! レヴィンが燃えてるよッ!」
「熱血……」
「後は計画通り、俺たちで探求者のパーティを組む。そして世界最強を目指そう!」
聞けば二人共、十二歳の時に探求者の登録だけは済ませているらしい。
と言っても、魔物との戦闘は中学校の課外授業でしか経験がないようだ。
どうやら騎士中学校と魔法中学校が合同で、生徒たちに魔物との戦闘経験を積ませているようなのだ。
「わわッ! 前に言ってた通りやっぱりパーティ組むんだねッ! シーンを誘った甲斐があったよ~!」
「でも……三人共魔導士……」
「前衛を任せられるのはヤツしかいない。ダライアスだッ!」
以前、アリシアとレヴィンの友人について話していた時、彼女がダラ何とか君と口走ったお陰で思い出した内の一人がダライアスである。
「小学校の同級生……? 今は……?」
シーンも彼のことは何となく覚えている様子だ。
レヴィンはそう言いながら心の中で彼の名前を連呼していると、段々と思い出してくるのが分かる。やはり少しずつではあるが、記憶は戻ってきているようだ。
これからも何かをきっかけに思い出すこともあるかも知れない。
パシリ神は
ダライアス――農民の家に育った同い年の少年で小学生の時の親友だ。
レヴィンの記憶が確かならば将来、探求者になる約束したはずである。
「確か今は家の手伝いをしてたはず。直ちに勧誘に行くぞッ!」
「お~!」
「……」
レヴィンの意気込みに応えてアリシアは右手を大きく掲げた。
シーンも少し恥ずかしそうにそれに倣っている。
レヴィンはそれを見て、またしてもほんわかと癒されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます