第26話 レヴィン、慢心する
≪
残念ながらベネディクトはまだ参加していない。
出会った魔物との戦いが始まって、レヴィンは生を実感していた。
ヒリつくような緊張感、そして未知の領域へと踏み込んでいく
ゲームのように派手なレベルアップの通知などないが、一応この世界でも
ここのところ毎週、レヴィンたちは依頼と狩りをこなしている。
森の中で魔法をぶっ放しながらニコニコ顔でレヴィンは思う。
春休み中、ほぼ毎日精霊の森へと通い、新学期が始まってからは休日のみの狩りだが、≪
これ以上のレベルアップは、精霊の森の魔物では見込めないかも知れない。
レヴィンの
獣使いLv3の条件を満たしたので魔物使いに
彼らとはその後も何度も会って交流を深めている。
【
「最近なんだか機嫌が良いねッ!」
アリシアも嬉しそうな顔をしている。
「そうだな。早く夏休みにならないか楽しみだ」
「楽しみ……」
シーンも嬉しそうで何よりである。
彼女も強くなった。と言うより、高位の魔法を使えるようになったと言うべきか。
アリシアもシーンも今のところは、特に問題なく魔法陣を描き出せるようだ。
ちなみにレヴィンもシーンから魔法陣を教えてもらった上、
「それにしても、レヴィンはともかく、俺たちが魔の森で通用するのか?」
「そうだよな。俺なんて最近、仲間になったばかりだし」
ダライアスとヴァイスがもっともな疑問を口にする。
レヴィンの『世界最強』と言う目標は≪
それに夏休みには魔の森へ向かうことも話し合い済みなのだ。
「大丈夫だよ。俺もフォローするし。それにベネディクトもいるから問題ないだろ」
その言葉に微妙に慢心が見え隠れしている事にレヴィンは気づかない。
レヴィンはズンズンと精霊の森の奥に向って進んで行った。
後はベネディクトを参戦を待つだけだ。
ベネディクトは真剣な目をしていた。
彼がパーティに入りたいと言ったのは本気だろう。
「でもベネディクトさん忙しそうだけど大丈夫なのかな?」
「アリシアにしてはよく気付いたな!」
「もう、にしてはって余計だよ~」
アリシアがポカポカな叩いてくる。
「ふはは。可愛いやつめ」と、レヴィンが心の中でアリシアを愛でていると、浮かれ気分に水を差す存在が現れた。
体に鱗を纏った恐竜のような外見の魔物が現れたのである。
レヴィンは自分の中の記憶を全力で検索する。
スケイルディノ、Bランクの魔物であった。
「精霊の森にもBランクがいたのか!」
【ライススマッシュ!】
ダライアスが近づいてきたスケイルディノに先制攻撃をくらわせる。
しかし、堅い鱗に阻まれてあまりダメージが通っていないようだ。
スケイルディノの表情に変化は見られない。
だが、攻撃を受けた事は理解したのだろう。その尻尾が唸りをあげてダライアスに迫る。避けきれず、まともに喰らった彼は3メートルほど吹っ飛ばされる。
次にヴァイスが
Bランクと聞いて出し惜しみは危険だと判断したのだろう。
【
良い判断であったが、ヴァイスの力不足なのか、スケイルディノには通用しない。
【
これはヤバイと直感したレヴィンが、風の刃を生み出した。
【
目にも留まらぬ速度で風の刃がスケイルディノの胴体へと肉迫する。
しかし、魔法は虚しく吹き散らされてしまった。
「マジか!? 硬過ぎだろッ!?」
レヴィンは前に出ると、アリシアたちにもっと距離を取るように促す。
すると、アリシアがスケイルディノから離れながら魔法を放った。
【
地面から茨の蔦が生えてきて、スケイルディノの足を絡めとる。
しかし、すぐさま力任せに引きちぎられる。
アリシアの魔法では足止めにならなかった。
【
そこへレヴィンが光の矢を打ち出すが、スケイルディノは軽快なステップで余裕を持ってかわす。その矢は木々に突き刺さり、バキバキという音を立てながらそれらをなぎ倒していく。
まるで木々が悲鳴を上げているかのようだ。
大きな体に似つかわしくない俊敏性にレヴィンが舌打ちをする。
そして、スケイルディノは一気に間合いを詰め、その
鋭い痛みがレヴィンを襲った。
なんとか腕を持って行かれることはなかったようだが、その激しい痛みが集中力を奪っていく。このままでは魔法が使えそうもない。
慌ててスケイルディノから距離を取るレヴィン。
「チッ、ぬかった……」
レヴィンの背中を冷や汗が伝ってゆく。
ダライアスとレヴィンの壁を突破したスケイルディノは、固まって動けないシーンを捉えた。しかし、吹っ飛ばされたダアライアスが戦線に復帰するや否や
【ライス斬り】
攻撃自体は左程ダメージを与えていないようだが、注意を引くことはできたようだ。スケイルディノの視線がダライアスに向く。
その隙にシーンがすぐさま対応する。
【
レヴィンは回復魔法がかけられ、左腕の傷が見る見るうちに直ってゆく。
そして痛みも消え、レヴィンは冷静さを取り戻した。
レヴィンはすぐに魔法を放つ。
まずは足止めだ。
【
氷の弾丸が引き寄せられるようにスケイルディノに迫っていく。
これも避けられそうになるが、着弾した氷がスケイルディノの右足を辛うじて地面に縫いとめる。そして素早く次の魔法を発動するレヴィン。
【
再度、放たれた光の矢がスケイルディノの胴体に風穴をあける。
さすがにこの魔法には耐えられなかったようだ。
地面にドゥっと倒れ込む。
「危ねー……。しかし焦った」
こんな事では、とてもじゃないが魔の森になんか行けない。
油断すれば高ランクの探求者ですら命を落とす魔の森である。
レヴィンは心の中で自分に活を入れ、その油断を消し去ろうとした。
シーンが吹っ飛ばされたダライアスにも回復魔法をかけている。
こちらはどうやら軽い怪我で済んでいたようだ。
すぐに起き上がって、手を上げて無事をアピールしながら、こちらにやってくる。
「強かったな。技もほとんど効いた様子がなかった。なんて魔物なんだ?」
「スケイルディノだな。ランクBの魔物だ」
「魔の森にはあんなのがうようよいるのか……」
ヴァイスも不安そうな表情をしている。
レヴィンは自身の油断と
今は一匹だけで助かったと考えることにする。
複数匹いたらパーティが全滅していたかも知れないことを考えると、身が引き締まる思いがした。
レヴィンは≪
「やっぱ、速くベネディクトに加入してもらう必要があるな……」
狩りを始めてから結構時間がたったように思われたので、五人は王都に引き上げる事にした。帰り道でも散発的に魔物が襲ってきたが、それにはしっかり対応する事ができた。
今日の狩りは、考えさせられる事が多かった。
レヴィンは、久々に初心を思い出す事ができたように思う。
王都へたどり着き城壁内に入ると、大通りに人だかりができていた。
どうやら野次馬が何かを取り囲んでいるようだ。
そのうちの一人に何があったか聞いてみる事にした。
「すみません。何かあったんですか?」
「ん? ああ、貴族の馬車と浮浪者が接触したみたいでな。貴族が騒いでんだ」
浮浪者の事は最近、朝刊でも読んだ事があった。
定期的に難民が西の方から流れてきているようで、アウステリア王国も対応に苦慮しているらしい。西のシ・ナーガ帝國の崩壊で政情不安になり、
このままでは、いつアウステリア領内にも
城門の方を見ると、城壁の側には浮浪者の姿が散見された。
「王国も情けを与えてやればいいのに」
ダライアスが悔しそうにぼやいている。
彼は農民で収穫物の多くを税として搾取されている。
同じ、弱者として同情を禁じ得ないのであろう。
一行は探求者ギルドに寄って依頼の達成報告と素材の換金を行った後、解散した。
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