第27話 レヴィン、初めて課外授業を受ける
今日は課外授業の日である。
レヴィンは初めての参加なので少し興奮していた。
「いやー。課外授業か。楽しみだな!」
「レヴィンはもう何回も魔物と戦ってるじゃない?」
「まぁ、そうなんだけど、今回はいつもと少し違うらしいぜ? アリシア」
レヴィンの言う通り、この日の課外授業は通常とは異なる。
騎士中学校と魔法中学校が合同で行うのはいつもと変わりない。
そして、班ごとに精霊の森で魔物を狩ると言う内容も同じである。
違うのは、森の中での狩りではなく、魔物の拠点を攻め落とすと言う点であった。
王都ヴィエナから南東へ行った辺りの精霊の森と街道の境界付近に、どこからか流れてきた
本来ならば探求者に討伐依頼が出されるはずであったのだが、それを聞きつけた魔法中学校の校長ジェイソン・フォン・ノルドント男爵が課外授業に組み込もうとギルドマスターに掛け合ったのである。
王都の探求者ギルドマスターであるランゴバルトは、面倒事が起こるのを嫌がって当然、この提案を拒否した。しかし、ノルドント校長と話を聞きつけた騎士中学校の校長モンテール・フォン・ギルティ男爵の攻勢によりついには課外授業で
中学三年生となって使える魔法の数も増え、何度も課外授業を受けて経験を積んできたとは言え、まだまだひ弱な生徒たちが魔法職のみで魔物と戦うのは危険である。
そのため、前衛を任せられる騎士中学の生徒たちと班を組み、授業に臨むのである。普段は現場の教師によってバランスを考慮して決められるはずの班であったが、今回ばかりは気合の入った校長を筆頭に、教頭などお偉方の意見も捻じ込まれる形となった。
レヴィンは、Sクラス代表で、魔法中学校で最も目立つ男ベネディクトと同じ班になった。別に嫌な訳ではないし、ベネディクトの性格が悪い訳ではないので思うところはない。むしろ彼は良い奴であったが、何となくマイペースなところがあり、前世では出会ったことのないタイプの人間であった。
しかもレヴィンに対する評価が高い。
班の編成は引率教師を含めて約十一名。
レヴィンは第一班に配属された。前衛五名、後衛五名、引率教師一名である。
中には
普通、クラス代表は成績優秀者が務める場合がほとんどである。
要はベネディクトに危険が及ばないような班決めになっているのだ。
ただ一つ、レヴィンが代表になったのは、教師にとって想定外だったのかも知れないが。
全部で十班が同時に精霊の森と街道の境界に築かれた
レヴィンたち、第一班が攻撃を受け持つことになったのは
森へ足を踏み入れた第一班のメンバーはそろりそろりと
拠点には土塁が積まれ、柵と空堀が行く手を阻むように備えられていた。
「なんだよ。意外と守りは堅そうだな……」
そう呟いたのはヴァイスであった。
土塁の上には弓を持った
その時、周囲に大きな鐘の音が鳴り響いた。
攻撃開始の合図である。
予定ではこれで各所から一斉攻撃を開始する手はずとなっていた。
最初に前衛を務める生徒たちが空堀に入って急な傾斜を駆け上がろうとする。
それに
レヴィンにしてみれば予想通りの動きである。
挨拶代りに風を操る黒魔法をぶっ放すレヴィン。
【
圧縮された空気が次々と弾けて土塁の上にいた豚人たちを吹っ飛ばす。
これで、しばしの間は攻撃される心配はなくなった。
引率教師が突撃の指示を出している。
前衛の五名が足場の悪い傾斜を上って行く。
それを見て大変そうだと感じたレヴィンは別の魔法を発動した。
【
レヴィンが目標にした場所を中心に周囲の土が消滅する。
本来は大地に穴を開ける魔法なのだが、レヴィンは魔力を調整して盛り上がった部分のみの土を消して見せた。
当然、その部分だけ傾斜が無くなり突破口が開かれた形である。
「これで楽に侵入できんだろ」
レヴィンの言葉を受けて一気に拠点内へと侵入しようとする五名の前衛。
そこへ駆けつけた
白兵戦に移ったからには流石に魔法は放てない。
巻き込んでしまう恐れがあるからだ。
付与術士のノイマンが前衛たちに防御魔法をかけ始める。
そこへ森の奥から突如、エアウルフの群れが現れた。
エアウルフはDランクの魔物だ。
大して強い訳ではないが、群れるとやっかいな相手ではある。
それにレヴィンにはあの苦い経験もある。
レヴィン、ベネディクト、レイトが中心となって攻撃魔法を放ってゆく。
【
【
【
レヴィンの魔法がエアウルフ二匹を斬り裂き、ベネディクトの魔法が二匹を感電させ、レイトの魔法が三匹を氷漬けにする。
レヴィンとしては一気に片づけても良かったのだが、それぞれの活躍の場を奪うつもりはなかったので無難な魔法を選んだのだ。
そしてあっさりとエアウルフを仕留め終わる後衛の五名。
レヴィンは今回の課外授業を楽しみにしていた。
慢心はしていなかったが、若干の気の緩みがあったかも知れない。
いざとなれば自分一人で全ての
遠くでも爆音が響いている。
あちこちで派手な攻撃魔法が撃ち込まれているようである。
レヴィンが前衛に目を向けると、ヴァイスたちに倍ほどの
引率教師もそちらのフォローに行っている。
レヴィンがベネディクトと示し合わせて、援護に回ろうとした瞬間、大きな
レヴィンは思わず舌打ちをした。
「チッ!」
【
レヴィンは迷うことなく魔法陣を展開した。
取り敢えず、間合いを取るために全員まとめて吹っ飛ばす。
しかし、それをかわした
そこへベネディクトたちの魔法が放たれる。
流石、成績優秀者ばかりが集まっただけあって魔力の練成から発動までの時間は短い。だが、
【
レヴィンは一番近くにいた豚人の首を魔法ではね飛ばすと、その一瞬で更に距離を縮めて来た一人を迎え撃った。
魔力を込めた右拳が豚人の腹へとめり込む。
レヴィンの右手に衝撃が返ってくる。
その一撃に豚人が胃液を吐き出しながらもレヴィンに向かって剣を振り下ろした。
レヴィンはその濁った目を睨みつけながら洗練された動作でその一撃をかわす。
「おせぇ!」
レヴィンの動きは神速の如く素早い。
自我を取り戻した頃から大きく成長していたレヴィンにとって
背後を見せたレヴィンに突っ込んでくる別の
剣を突き刺すつもりなのだろう。
再び、
それもまた、どこか焦点の合っていない濁りきった目であった。
「俺に接近戦で勝とうなんざ一億年早いんだよッ!」
レヴィンの横を複数の魔法が飛んで行く。
ベネディクトたちが間合いを取って再度、攻撃を仕掛けたようだ。
レヴィンは仲間の無事にホッとするも、目の前の敵から目を離さない。
突きを放ってきたその剣を両手を使って
痛みからか、のた打ち回る
「ベネディクトッ! 前衛を援護するぞッ!」
「分かった!」
圧倒的に押されていたヴァイスたちであったが、教師の援護もあってどうにか踏み止まっていた。
拠点内にはまだ侵入できていない。
レヴィンは魔物の多さに釈然としないものを感じるが、とにかく今は援護が必要だと判断する。各々、魔法陣を展開する後衛の四名。
「援護するッ!」
ヴァイスたちの援護に回ろうとレヴィンが拠点に駆け寄ったその時、朗々とした声が響いた。
【
その瞬間、レヴィンの意識は暗転した。
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