【改稿版】神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海

第1章 異世界転生!

プロローグ

「ゴルァァァァァ!!」


 黒魔導士レヴィンの雄叫びと共に、その顔面に魔力のこもった拳が叩き込まれて一人の豚人オークが吹っ飛ぶ。

 

「オイッ! 戦線崩れてンぞッ! 前衛は踏ん張れッ!」


 そこへ、前線で戦う暗殺者アサシンイザークの叱咤激励の声が全員の心を鼓舞した。

 ここは、アウステリア王国の王都ヴィエナから東へ三日ほどの場所。

 レヴィンたちは探求者ハンターギルドの依頼を受けて、商人のハモンドが率いる隊商を護衛していた。

 その任務の途中で豚人オークの群れの襲撃を受けたのだ。

 豚人オークとは、この世界に多く生息している亜人の一種で、豚のような顔に力士のようなでっぷりとした体を持つ魔物である。


「何でこんな大軍が……」


 レヴィンの近くにいた黒魔導士の呟きが耳に入る。確かカールと言ったか。

 そんなのは知ったことか!とレヴィンは心の中で悪態をついた。

 そんな暇があったら魔法の一つも放って欲しいところである。

 とは言え、魔法を発動する速さに自信を持つレヴィンですら魔法を使うことが中々できないでいた。魔法を使うには、体内で魔力を練成した後、頭で魔法陣をイメージしてそれを虚空に描写し、そして術式、魔法陣を展開する必要があるのだ。


 事態はそれ程までに切迫していた。


 魔物の奇襲により前衛が突破され、中衛を任されていた魔導士たちは接近戦を強いられていた。

 魔法を使う暇がないなら、物理で殴るしかない。

 巨大な斧を振りかざして襲い来る豚人オークその壱の一撃を素早い動きでかわすと、レヴィンの魔力拳まりょくけんが醜い豚の魔物を襲う。


「近寄るんじゃねぇよ、この豚野郎がッ!」


 もちろん、罵声を浴びせるのも忘れない。

 喧嘩は気合なのである。大声で自身の魂を奮い立たせつつ、敵を威圧するのだ。

 幸いなことに喧嘩慣れしていたレヴィンは、攻撃を受けることなく立ち回っていた。流石に、剣や斧、槍と言った殺傷能力の高い武器を持った相手との喧嘩などあまり経験したことはなかったので余裕とは言えないが。

 こんな感じでレヴィンは魔力を込めた両手を使って、迫り来る豚人オークを片っ端から殴り倒していた。

 が、致命傷を与えるには至っていない。

 黒魔導士の攻撃力などたかが知れているのだ。


 そこへようやく後方を警備していた護衛メンバーが駆け付けてくる。


「援護するッ! 魔導士たちは後ろに下がるんだッ!」


 その声に貧弱な装備しか身につけることのできない魔導士や弓使いが逃げるようにして後方へ下がる。

 レヴィンはその前に置き土産として魔法を放つ。


火炎球ファイヤーボール


 ズガアアアアアアアアアアアアアン!


 放たれた火の塊が三人の豚人オークの中心で炸裂する。

 撒き散らされた火炎に飲み込まれ、火だるまになる豚人オーク

 レヴィンは当然、【火炎球ファイヤーボール】に味方が巻き込まれないように考慮していた。

 見ると、前衛は完全な乱戦状態で、イザークがおにのような形相で斬って斬って斬りまくっている。彼はその端整な顔や体に返り血を浴びて全身を赤に染めている。彼の燃えるような赤髪と相まってその姿はオーガよりもおにらしい。

 その背後では、イザークの相棒の魔法剣士まほうけんしイーリスがひらひらと舞う蝶のように豚人オークを翻弄していた。

 彼女の動きに合わせて、その美しい銀髪が揺れる。

 流石は探求者ハンターランクBと言うだけあって豚人オーク程度は歯牙にもかけない。


電撃ライトニング


 隣ではカールがいかづちの魔法を解き放っている。

 魔物の一人がまともに喰らい、電撃でんげきに身を焦がされるもどうやら倒しきれなかったようだ。


 しかし、それを他の戦士ファイターがフォローに回る。

 背後からジャンプして襲い掛かると、動きの鈍くなった豚人オークの首をはねたのだ。豚人オークはかなりの巨体だ。二メートルはザラで、大きい個体は三メートルにもなる。それが束になって襲ってくるのだから、恐らく普通の人間なら恐怖で足が竦み上がってしまうところだろう。

 しかし、豚人オークは魔物の格付けで言えば、Dランク程度でしかない。

 探求者ならば、最低でもこれ位は倒せないと問題外なのである。


 レヴィンが味方を巻き込まないように魔法を発動しようとしていた、その時、背後から鯨波のように大音声だいおんじょうが響き渡った。

 レヴィンが驚いて後ろを振り返ると、そこには三メートル以上はありそうな豚人オークを先頭に十人以上がこちらに向かって駆け寄って来るのが見えた。


「チッ! まだいやがるのかよッ!」


 レヴィンが舌打ち交じりにボヤく中、近くで小さな悲鳴が上がる。

 情けないとは思うが、魔導士や弓使いなどは騎士ナイト戦士ファイターなどの前衛を務められる者とパーティを組んで初めて真価を発揮する。

 現にこの護衛任務には計五組のパーティが参加している。

 壁役がいないのだから彼らが恐怖心を抱くのは仕方がないが、そう言っていては探求者は務まらない。


 探求者とは、人間を害する魔物を滅ぼし、その魔石や素材を売っったり、ギルドの依頼をこなしたりして生計を立てている者たちのことである。

 彼らは人間の手が及んでいない未踏領域の探索や、世界のどこかにあると言う巨大迷宮への挑戦、犯罪者の捕縛、素材の調達などをありとあらゆることをこなすと言う。


火炎球ファイヤーボール


 ドガアアアアアアアアアアアアアン!


 レヴィンの【火炎球ファイヤーボール】が炸裂し、豚人オークたちの足が止まる。三人ほどが炎に巻かれたが、他の個体は地を舐める火炎から逃れると、それを回避してレヴィンのいる方へ向かってくる。


 しかし、遅い。


 レヴィンは敵を殺すに当たって効率の良い魔法の使い方を選択し着実に敵に死を与えていく。豚人オークたちは、火炎に焼かれる仲間の左右から三人ずつこちらへ向かってくる。


 そこへレヴィンの魔法が解き放たれた。


空破斬エアロカッター


 レヴィンの『偉大なる言葉マグナ・ヴェル』により、空気中に発生した気流が鋭い風の刃と化し、一列に並んだ三人の豚人オークの体を両断した。


凍結球弾フリーズショット


 更に大気中から集まってできた氷の塊が三人の豚人オークの真ん中に着弾し、二人を全身氷漬けに、一人を足止めする。


 先頭にいた巨大な豚人オークは、その中には入っていない。

 亜人のくせに多少頭は回るようだ。レヴィンはそんなことを考えながらも次々と魔法で敵を葬り去っていく。

 残りの豚人オークたちが、波状攻撃を仕掛けてくる。

 どうやら巨大な豚人オークが指示を出しているようだ。

 お陰でチマチマと魔法を連発していくしかなくなってしまった。

 指示を出しているヤツは知能が特に高そうだ。

 おそらく豚人王オークキングなのかも知れない。


 その頃、前衛に余裕が生まれたらしく、数人の探求者が駆け付けてくる。


 これで楽になる――


 そう思ったレヴィンだったが、その期待は一瞬で裏切られてしまった。

 豚人王オークキングが駆け付けた戦士ファイター修道僧モンクを容易く蹴散らしたのだ。

 レヴィンは仲間がトドメを刺される前に、魔法陣を展開する。


空破斬エアロカッター


 狙いは豚人王オークキングだ。

 しかし、魔法がその首を掻き斬るかに思われた瞬間、豚人王オークキングは持っていた剣で風の刃に斬りつけると、あっさりと吹き散らしてしまった。

 流石は豚人王オークキングである。ランクBは伊達ではないらしい。

 しかもレヴィンが考えるに、持っている剣は恐らく魔力剣かそれに近い物だろうと思われた。

 しかし、使い勝手が良い【空破斬エアロカッター】が無力化されたのは痛い。

 残念ながらレヴィンが行使できる攻撃魔法の数は少ないのだ。


「チッ!」


 レヴィンはもっと魔法を身につけてこなかった過去の自分に思わず舌打ちをしてしまうが、そうなったのも全てはあの自称神じしょうかみのせいなので考えるだけ無駄な話だ。


 レヴィンは零距離ぜろきょりで魔法を放つしかないと考えて豚人王オークキングとの間合いを一気に詰める。その両手に魔力を込めて。幸いにも蹴散らされた仲間たちからレヴィンに注意が移ったようだ。


「クソ人間がァッ! 小賢しい真似をしやがってェェェ!」


 豚人王オークキングはそう吠えると、向かってくるレヴィンを真正面から迎え撃った。

 大きな振りがレヴィンに迫る。

 それを半身になってかわすと、そのまま右拳を豚人王オークキングの腹へ叩きつける。

 その一撃は、あっけなく鎧に防がれてしまう。鎧の材質は不明だが硬い。

 やはり、いくら魔力を乗せて威力が増しているとは言え、高々黒魔導士の力ではそれ程ダメージを与えることなどできないのだ。

 豚人王オークキングは下卑た笑みを見せると、レヴィンに剣撃を浴びせ掛ける。

 そのラッシュにレヴィンの集中力が乱れる。


「くそッ! 隙がねぇッ!」


 レヴィンの隣では先程、蹴散らされた二人が体勢を立て直して他の豚人オークと戦っている。援護が期待できない中で、何とか練った魔力と展開した魔法陣で魔法を解き放つ。


空破斬エアロカッター


 至近距離からの必殺の一撃であったが、敢え無くそれは剣に弾かれて霧散する。

 ダメージはない。魔力の欠片がほんの少しだけ豚人王オークキングの顔に傷をつけた程度である。


 豚人王オークキングがその程度でひるむはずもなく、再び、レヴィンは激しい攻撃に晒される。

 それを息を切らしつつもかわしながら、レヴィンは心からの叫びを吐き出した。


「こんの……チックショウがッ! ここが日本でッ!」


「俺が藤堂高志とうどうたかしならッ!」


「テメェなんぞに押されるかよッ!」


 レヴィンは、豚人王オークキングの斬撃をひたすらかわしながら悪態をついた。

 そう、実はレヴィンと言う少年は、日本からこの世界にやってきた異世界人なのである。

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