第36話 レヴィン、神に願う
レヴィンは例の白い部屋にいた。
パシリ神曰く、天界の会議室のはずだ。
レヴィンの隣にはサリオンが何だか複雑な表情をして佇んでいる。
そして目の前には
会議室のドアが開き、
それを見て、サリオンはビシッと敬礼をする。
上下関係は厳しいのか、彼女の表情が精悍なものに変わる。
「今回は空から降りてきたりしないんだな」
「はっはっは! アレも重要な演出なんですよ? レヴィンさんもアレで度肝を抜かれたでしょう?」
「いや、何か関わり合いになりたくないヤツが来たなぁとは思ったが」
「それを度肝を抜くと言うのですよ」
「いや言わねーから」
「しかし、こんなに早く再会することになるとは思いませんでしたよ」
レヴィンの言葉をスルーして自称神は頭をかいている。
余計なことは聞かないのが目の前の男の
「俺もこんなに早く願いが叶うとは思わなかったよ」
自称神たちはいずれも苦々しい表情を浮かべている。
そんなことはお構いなしにレヴィンは願いを伝えようと口を開いた。
成り行き状、
「では言おう! 俺の願いは――」
「えーその件についてですが、何と言うか、誠に遺憾と言うか……」
しかし、レヴィンの言葉は自称神によって遮られてしまった。
珍しく歯切れの悪い自称神の言葉に、レヴィンが
レヴィンは再度願いを口にしようとしたが、自称神が何か言いたげにしているのを見て言葉にするのを止めた。
そこへ、ようやく踏ん切りがついたのか、自称神がいつもの表情を見せると無慈悲な言葉を告げた。
「まぁ平たく言うと、今回の手柄では願いは叶えられません!と言う訳です」
一瞬、何を言われたのか理解できずに固まるレヴィン。
「ええッ! 俺、結構頑張ってバグを倒して捕まえたんだぞ?」
「えーでは、担当者のシュバイツ君から説明があります」
自称神の言葉に応えて一歩前に進み出たのは体格の良い眼鏡を掛けたおっさんであった。鼻の下のチョビ髭が似合っていない。
「ゴホン。保守担当のシュバイツです。実はあなた……レヴィンさんがバグにさらわれる直前から世界に大規模な障害が発生しておりまして……」
「障害?」
「はい。実はいくつか修正パッチを当てたのですが、それが原因で大小様々なバグがあちこちで起こったみたいなのです」
「みたいなのです……じゃねぇぇぇぇ!」
「パッチ当てるなら深夜にするとかさぁ……。世界の時を止めて当てるとかさぁ……」
「色々やり方ってもんがあるだろう!?」
レヴィンは心からの叫びをシュバイツに畳み掛けるようにぶつけた。
その勢いにも保守担当シュバイツは平然とした態度を崩さない。
「いやー大丈夫だと思ったんですが」
「大丈夫な訳あるかぁぁぁぁぁ!!」
「まぁとにかく
「それでかぁぁぁぁ!? って魔王って
レヴィンの
「詳細については現在、調査中です」
「……
「……」
ニッコリ微笑む自称神とシュバイツ。
その笑顔は真夏のビーチを熱く照らす太陽よりも眩しい。
「責任者あああああああ!」
発狂しかけたレヴィンの様子を見た自称神がパシリ神に何かを告げた。
パシリ神は会議室から出ると、小柄な女性を連れてすぐに戻ってきた。
眼鏡をかけており、水色の長髪を頭の上でお団子にしている。
「彼女がうちの
「
「何言ってんだ?」
「
「おい。こんなのが
「
ウォルスの意味不明な言葉に、レヴィンは困惑していた。
しかし、何となく察することはできる。
恐らくコーディング上のスラングを使っているのだろう。
「って言うか会話する気ねーだろ」
それでも何とか言葉を絞り出す。
「とにかくまともな世界にしてくれ……」
「フフッ、
彼女はそう言い放つと会議室から出て行った。
一体、彼女が何をしに来たのか最後まで分からないレヴィンであった。
打ちのめされているレヴィンに保守担当のシュバイツが追い打ちをかける。
「後、ひどかったのはデバッグモードの実装ですね」
「デバッグモード?」
「はい。あまりにも他部署からの侵入者が多いもので、それを取り締まる
「だったようです……じゃねぇぇぇぇぇ!」
レヴィンがいい加減ツッコミに疲れてきた頃、黙っていたサリオンが口を開く。
「でもそのお陰でレヴィンさんはバグに連れ去られることがなかったんですよ?」
「は?」
「障害と共に、世界に高負荷がかかってね。おそらくそのせいでバグ……スネイトは転送に時間がかかったのです」
「転送?」
そう言えば、スネイトが何やらそんな感じのことを言っていたような気がする。
レヴィンは当時のことを思い起こしていた。
が、レヴィンの頭は既に考えることを放棄していた。
サリオンは力尽きようとしているレヴィンに向けて告げた。
「要するにこの世界から脱出するのに時間がかかったって訳!」
その言葉にウンウンと頷きながら自称神はお気楽な口調で言い放った。
そして再び、無慈悲な言葉がレヴィンを襲う。
「つまり、バグによってさらわれたレヴィンさんを転送するのにバグのせいで時間がかかり、たまたまバグによって能力を最大値以上に引き出されたレヴィンさんが、バグのお陰でバグに勝ったと言う訳です」
「バグバグうるせぇぇぇぇ!」
「フッ、とにかく、今回の件はバグまみれって寸法なんです」
レヴィンの怒声にも似たツッコミにも負けず、自称神は大きく胸を張る。
「威張るな……頼むから……」
「あなたは大規模障害のお陰で勝てたんですよ」
自称神のトドメの一撃を喰らってレヴィンはその場に崩れ落ちた。
そしてレヴィンは誰にも聞こえないような小さな声でポツリと呟いた。
「神様の願いを叶えて世界最強じゃなかったのかよ……」
その言葉は会議室の空調の風に流され消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます