第20話 深い霧

第二十話 深い霧


ミゼル:「き……きゃあああああああああああああああああ」


アッシュ:「ちょ、ミゼルさん暴れないで。落っことしちゃいますよ」


ミゼル:「これが騒がずにいられるか。でも絶対落としちゃだめよ。絶対。落としたら絶対恨むからね」


アッシュ:「わ、わかってますよ」


どしゃん


ミゼル:「あいたたた」


(一応、アッシュ君の神の意図で二人の体を覆って落下の衝撃を弱める作戦は成功したみたいね。腰打っちゃったけど)


ミゼル:「でもやっぱり、この高さを体一つで落ちるのはかなり肝が冷えたわね……アッシュ君、大丈夫」


アッシュ:「はい、なんとか。あいたた」


ミゼル:(あっちは膝を強打したみたいね)


「それにしてもすごい霧ね。全然見えないわ」


アッシュ:「そうですね。この霧いったいどこから……うん?」


ミゼル:「近くに温泉でも湧いてるのかしら……ん、ちょ、アッシュ君、どこ」


アッシュ:「こっちです」


ミゼル:「こっちって…………」


アッシュ:「…………」


ミゼル:(あ、いた)


「ちょっとアッシュ君。あんまり離れたら危ないでしょ」


アッシュ:「ミゼルさん、これ」


ミゼル:「これって……え、なに、これ」


アッシュ:「………………村、ですかね」


ミゼル:「そう、みたいね。でも……」


アッシュ:「この村、もう息をしていませんよね」


ミゼル:「………………」


(こんな岩しかない所の、しかも穴の中にこんな村があることだけでも驚きだけど。それがどうしてこんな……)


謎の声:「遅かったじゃないか、少年、いや、アッシュ君」


ミゼル:「っ、あんたは」


アッシュ:「マーキュリー・シーン」


マーキュリー・シーン:「やあ、久しぶり。君とまた会えるのを心の底から待ち焦がれていたよ。それこそ気が狂ってしまいそうなほどに」


アッシュ:「どうしてお前が、ここに」


マーキュリー・シーン:「どうしてって、そんなの当然じゃないか。私たちの出会いは神様が結び付けた運命、いや宿命なんだよ。君はベータ教の神が私に遣わせた最高の贈り物なんだ」


ミゼル:「なにを、言っているの」


(前会った時とマーキュリー・シーンの様子がおかしい。私たちに出し抜かれておかしくなったの。それともこれがマーキュリー・シーンの素)


男の声:「う、うわああああ」


ミゼル:「あれは」


(この村の。がれきの下に隠れていたの)


壊滅した村の男:「た、たすけてくれええ」


マーキュリー・シーン:「君、うるさいよ」


シュパンッ


ミゼル、アッシュ:「「っ」」


ミゼル:(首が……)


壊滅した村の男:「た、たすけ……」


マーキュリー・シーン:「全く、せっかくアッシュ君との感動的再会だっていうのに。とんだゴミに水を差されたよ」


ミゼル、アッシュ:「「………………」」


マーキュリー・シーン:「なあ、アッシュ君もそう思うだろ」


アッシュ:「……もういい」


マーキュリー・シーン:「うん?」


ミゼル:「アッシュ君」


アッシュ:「お前がどんな考えで、なにを思ってこんなことをしたのかなんてどうでもいい。ただ僕はお前を倒す。おじさんをおばさんを殺したお前を。人の命なんて何とも思わないお前は、生きてちゃいけないやつなんだ」


マーキュリー・シーン:「ふ……その考えには同感だ」


ミゼル:(まずい、アッシュ君自分を見失っちゃってる)


「ま、待ってアッシュ君」


ズバァァン


ミゼル:「きゃ」


(いきなり空間が、爆発した)


アッシュ:「ぐっ」


マーキュリー・シーン:「ふ」


ドガァン


アッシュ:「ぐあっ」


ミゼル:「アッシュ君」


(突然、アッシュ君が吹き飛ばされた)


マーキュリー・シーン:「君の力はその程度かい。あんまりがっかりさせないでくれよ。君との再会を心の底から楽しみにしてたんだよ。ほら、立って。もっともがいて見せてよ。プライドも矜持も全部投げ捨てて見てられないくらいの生き恥を私にさらしてくれよ。私は君の命を、人としての尊厳を完膚なきまでに踏みつぶして潰えさせたいんだよ。だから、ほら、もっと」


アッシュ:「くっ」


ミゼル:「待って、アッシュ君」



アッシュ:「くそぉおお」


マーキュリー・シーン:「ふん」


ドガァン


アッシュ:「ぐあ……うおおおおおおお」


ミゼル:「アッシュ君落ち着いて」


マーキュリー・シーン:「ふ」


アッシュ:「ぐあっ」


マーキュリー・シーン:「ほらほらそんなんじゃおじさんとおばさんの仇は取れないよ」


アッシュ:「くそお」


ドガァン


アッシュ:「くっ」


ドシャン


アッシュ:「がはっ」


ガン、バキッ、グシャ


アッシュ:「はあ、はあ、はあ……く、くそ」


ミゼル:(実力が違いすぎる。いくらアインレストでダーティアを子ども扱いできたアッシュ君でもスターズのマーキュリー・シーン相手じゃ、やっぱり)


バタン


ミゼル:「あ、アッシュ君」


マーキュリー・シーン:「なんだい、もう終わりかい。まだ本気のほの字も出していないんだけどね」


アッシュ:「ま、まだ、だ……」


ミゼル:「待ってアッシュ君。もう立たないで。これ以上は」


アッシュ:「はあ、はあ、はあ」


マーキュリー・シーン:「つまらないな。どうしたらもっと地べたを這いつくばる羽虫のような無様な姿を私にさらしてくれるのかな…………そうだ」


アッシュ:「…………」


マーキュリー・シーン:「その娘を殺そう」


アッシュ:「なっ」


ミゼル:「っ」


マーキュリー・シーン:「元々その娘は君の目の前で殺すつもりだったしね。自分の無力さでその娘が死ぬ、さいっこうのエンターテイーメントだろ」


アッシュ:「や、やめろ」


ミゼル:「っ」


マーキュリー・シーン:「元々ベータ教に逆らった君に未来はない。感謝してくれとは言わないけど楽に死ねるだけ幸運だと思うんだね」


ミゼル:「あんたと会った時点で最悪の不幸よ」


マーキュリー・シーン:「……君らしい遺言だね」


アッシュ:「やめろおおおおおおおおおおおおお」


フッ


マーキュリー・シーン:「何………………消えた」





???


ミゼル:「アッシュ君、起きて、アッシュ君」


アッシュ:「…………」


ミゼル:「だめ、完全に意識を失ってる」


(さっきのアッシュ君、いつものアッシュ君じゃなかった。やっぱりオルランドさんたちの事……)


ミゼル:「ううん、今はそんなこと考えてる場合じゃない。早くここから逃げないと、でも……」


(あたり一面霧まみれで全然自分の居場所がわからない。せめて、上だけでも晴れてたら方角ぐらいわかるかもしれないのに)


ミゼル:「どうすれば……」


謎の声:「外界からの客人が来るのは一体何年ぶりじゃろうかのう」


ミゼル:「っ、だ、誰」


(まさかマーキュリー・シーンの手下)


細木のようにやせこけた老人:「これはこれは、申し遅れました。わしはこのミストレアで村長のようなものをやっておるキュルートというものじゃ」


ミゼル:「きゅるーと?みすとれあ?」


キュルート:「まあ積もる話はあとにして、とにかく村へ入りなされ。その少年を連れてこの霧の中を進むのは危険すぎますわい」


ミゼル:「っ……わかりました」


キュルート:「歓迎しますじゃ…………ようこそガンマ教の聖地ミストレアへ」


ミゼル:(ガンマ教、それって………………)



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